就活で自己PRできない教育困難校の生徒たち 面接でいっそ「トランプ」をした方がいい理由

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この緊張は、まったく知らない大人たちと話さなければいけないというプレッシャーが原因だ。特に、首都圏など都市部の「教育困難校」の生徒は、地域社会や親族の大人とまともに話をしたことがない。都会では防犯上の視点からあいさつも禁止されるような時代なのだから、季節や時間、立場にあったあいさつができる生徒はますます少なくなるだろう。話したことのある大人といえば、親とバイト先の社員、バイト先のお客だけという生徒が、面接を尻込みするのは当然である。

何を自己PRすればよいのか…

面接の必須事項である自己PRも難物だ。最近は、どの学校段階の就職面接でも自己PRを求められるが、これを考え出すのも「教育困難校」では難しい。幼い頃から、家庭や学校での体験が少なく、自分は何が得意で何が苦手かわかっていないのだ。部活動でも熱心にやっていれば、まだそれをネタに自己PRを作れるかもしれないが、「教育困難校」では、部費などの経済的負担ができず、部活動をやっていない生徒が多数いる。生活にも余裕がなく、親も自分も趣味らしきものも持っていない。空いている時間は、ゲームとスマホに費やしているという生活の中で、何を自己PRすればよいのだろう。

大体、「私の強みは」「私が自信のあるのは」と臆面もなく言えるほど、彼らは自分を評価していない。自己肯定感が低い、誰からも褒められたことのない、自分を過小評価しがちな「教育困難校」の生徒は、実は非常に謙虚でもあるのだ。結局、わずかな出来事を針小棒大に広げた、ありがちな自己PRを生徒と教師で作り上げることになってしまう。それならばいっそ、面接の場で「七ならべ」や「神経衰弱」などのよく知られているゲームでもやったほうが、よっぽど人柄や特性、コミュニケーション能力がわかるのではないかと、実は本気で筆者は考えている。

志望動機も自己PRも、「教育困難校」の生徒にとっては大きな壁となる。家庭環境によるさまざまな不利益を抱えながら、彼らなりに一生懸命立ち向かい、その傍らで教師も頑張っている。企業の方々から見れば、「教育困難校」の生徒たちの多くは、内定を出す水準に達していないかもしれない。しかし、彼らは、少なくとも真夏の奮闘ができた生徒であることは、知っていただきたいと思う。

朝比奈 なを 教育ジャーナリスト

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あさひな なを / Nao Asahina

筑波大学大学院教育研究科修了。教育学修士。公立高校の地歴・公民科教諭として約20年間勤務し、教科指導、進路指導、高大接続を研究テーマとする。早期退職後、大学非常勤講師、公立教育センターでの教育相談、高校生・保護者対象の講演等幅広い教育活動に従事。おもな著書に『置き去りにされた高校生たち』(学事出版)、『ルポ教育困難校』『教員という仕事』(ともに朝日新書)などがある。

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