就活で自己PRできない教育困難校の生徒たち 面接でいっそ「トランプ」をした方がいい理由
「教育困難校」で筆者が面接指導をしていたときのことだ。ある女子生徒の調査書を見て驚いた。評定平均がオール5だったのだ。いくら学力の低い「教育困難校」とはいえ、オール5を取る生徒は極めてまれな存在である。しかも、彼女は生徒会長、陸上部部長も務めたともある。まじめで利発な印象で、筆者の質問にもてきぱきと答えている。
その彼女に、「なぜ、働きたいのか」という質問を投げると、彼女は突然口ごもり、しばらく沈黙が続いた後、うつむいて涙ぐんでしまう。少し落ち着いた彼女から語られた涙の訳は次のようなものだった。彼女は第1志望の高校受験に失敗し、2次募集でこの高校に進学した。悔しさをバネに高校生活のあらゆる面で頑張ってきた。実は栄養学に興味があり、本当は大学に行きたい。けれども、それを親に話すと、「ごめんね。うちにはそんなおカネがない」と言われた。彼女の父が勤めていた会社が倒産し、まだ失業中だったのである。家族のために就職すると納得して決めたつもりだったが、面接練習をしているうちに急に悲しくなってきたというのだ。
家庭の貧しさのため進学をあきらめたという子どもは、以前からたくさんいた。昭和30年代に盛んだった集団就職で地方から都会の企業にやって来た中学生の多くもそうだったのだろう。今、やむをえず就職を希望する高校生たちは、この集団就職の中学生たちと同様な立場と思える。しかし、集団就職をした中学生たちは「金の卵」と企業から歓迎され、もちろん、求人倍率も今よりも高かった。また、自分が頑張れば、田舎の貧しい生活から都会の豊かな生活にランクアップできるかもしれないという夢があった。しかし、家庭の事情でやむをえず就職する現代の高校生には、将来への光明がまったく感じられないのではないかと思う。
教師が志望動機も作成してしまう?
面接で聞かれる志望動機は「なぜ働くのか」だけではない。その企業を選んだ理由、その職種を選んだ理由も必ず問われる。この質問への回答も準備しておかなければならない。あまりにも言葉が出てこない生徒に業を煮やし、丸ごと回答を作成してしまう教師もいないではない。だが、良心的な教師は、生徒自身の中から出た言葉をまとめたものでないと面接でボロが出てしまうとわかっているので、時間をかけて生徒と一緒に考えていく。
志望動機が何とか形になると、模擬面接指導が始まる。この際、高校生がどれだけ緊張するかは、たぶん企業の方には想像ができないであろう。何事にもあまり熱心に取り組めない「教育困難校」の生徒たちが、真夏の進路室で汗だく(冷や汗も含む)になりながら頑張っている。その姿を見て教師も何とか手助けをしてあげたいと思い、両者には急速に信頼関係が生まれる。日頃の学習活動ではできなかった絆が、ここにきて結ばれるのだ。
最初のドアノックができず、扉の前で「どうしよう、どうしよう」と迷っている生徒もいる。入ってくるなり、右手右足を一緒に前に出して歩き出す、学校名を「練馬区立○○高校」とありもしない名称で言ってしまう、何度練習しても蚊の鳴くような声でしか答えられない等々、本番でもないのに生徒はパニックになり、予想もできない言動を連発する。就職試験では面接が最も重視されると聞いているからこそ、極度の緊張に陥る。おそらく、高校受験でも、これほど緊張はしなかったはずだ。
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