日本の過剰労働は、「お客様」の暴走が原因だ 理不尽な要求にノーといえる文化を作ろう
「ブラック客」の目を覚まさせるためのいちばん有効な手は、サービス提供者がノーをたたきつけることだろう。欧米では、過剰なサービスを要求する客を、「客ではない」と店が拒否する。
ヨーロッパ旅行をしたとき、日曜日に店がすべて閉まっていて驚いた、という経験をお持ちの方も多いのではないだろうか。筆者が住むドイツでは、閉店法という法律により、店の営業時間が規制されている。キリスト教では日曜日が安息日と定められているので、「日曜、祝日は閉店」が基本だ。また、労働者の休息時間を守り、小売店の営業時間延長による競争を阻止するため、「月曜日から土曜日までの小売店の営業時間は、6時から20時」という決まりが守られていた。
ただ、2006年には、閉店法の権限が国から州に移り、その後は各州で規制緩和が続いた。現在は16の州のうち、9つの州が月曜から土曜、3つの州が月曜から金曜の24時間営業を認め、14の州が年4回、またはそれ以上の日曜日の営業を認めた。しかし、法律改正後、ドイツ人は喜んで、店の営業時間を長くしたかというと、そうではない。今でも多くの店で、24時間営業や日曜営業は行っていない。フランクフルト中央駅には、スーパーとパン屋が合計17店舗入っているが、24時間営業しているのは、2軒のパン屋だけだ。
自分も休めば、他人にサービスを要求することはない
フランクフルトの中心街にある、ドイツの2大デパートのうちのひとつKaufhofは、月~水が9時半から20時まで、木~土が9時半から21時までで、日曜は休館。もうひとつのKARSTADTは、月~土の10時から20時までの営業で、同じく日曜休館。ショッピングセンターのMyZeil、Skyline Plazaは月~水が10時から20時まで、木~土が10時から21時まで営業、同じく日曜は休みだ。フランクフルトにある4つの巨大商業施設でさえこの営業時間なのだから、あとは推して知るべしだ。日曜や深夜にどうしても食料品が必要になったら、大きい駅の構内の店か、閉店法の規制から外されているガソリンスタンドに行くしかない。
一見不便に思うだろうが、ドイツ人は深夜や日曜に買い物をする習慣がないので、大して気にしていない。「なぜドイツ人は店が閉まっていても気にしないのか」といえば、「自分も休んでいるから」の一言に尽きる。ドイツには「深夜や日曜日は休むべき」という価値観が前提としてあり、自分自身が休んでいるのだから、他人に「働け」とは言わない。店が閉まっているのなら、前日に食料品を買って家でのんびりしていればいいのだ。
それでも「店を開けろ」「働け」という客には、はっきりとNOを突き付ける。ドイツだけでなく、欧米では客にNOと言うことが許される。だから対等な立場でいられるのだ。客の要求を拒否することは、サービスの質を下げることではない。労働者を守るために必要なのだ。
日本の「お客様」は、自分の立場が上で、過剰なサービスも当然だと思ってしまっている。だがサービス提供者がNOと言えば、「この要求は過剰なものだった」と気づくのではないだろうか。日本でも、極端な話、コンビニのオーナーたちが口をそろえて「営業時間は10時から18時」と決めてしまえば、客が泣こうがわめこうが、18時に店を閉めればいい。客がサービスに感謝し、サービス提供者の目線に立つことができて初めて、日本ご自慢の本当の意味での「おもてなし」になる。客が相手を思いやる気持ちを持てれば、労働環境も少しはマシになるだろう。
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