32歳婚活女子が元カレから受けた苦い屈辱 東京カレンダー「崖っぷち結婚相談所」<15>
知らぬ方が良いとは分かっていても、しかし、杏子はそう聞かずにはいられなかった。
「スッチーとでも付き合ってればいいのに。」
「知樹くんて、外銀女子を何人も同時に口説いてるのよ。他社の私の友達ともデートしてて、たまたま判明しちゃったの。きっと、ハイスペック系の女が好きなのね。世間って狭いから、そんなのすぐにバレるのに、馬鹿な男」
由香いわく、その友人を通して、知樹に口説かれた女たちが芋づる式に何人も発覚したらしい。女子の噂話は、あっという間に広がる。
「彼、私には2回目のデートから、口を開けば“付き合おう”とか“由香ちゃんと結婚したい”だの、強引に迫って来たのよ。もう、信じられない。食事中も手を握って離さないし、太ももにまで手を伸ばされたんだから」
由香はさらに顔を歪め、「気持ち悪い」と連発した。
杏子は、由香の話を呆然と聞いていた。自分は、その「気持ち悪い」男と、つい先ほどまで、抱き合っていたのだ。が、それは既に、遠い昔のことように感じる。
「やんわり、もう会いたくないって何度も言ったのに、デートの約束も強引に取り付けようとしてくるの。毎晩電話も来るし、もう最悪よ。一昨日の土曜なんて、断ったのに家まで来ちゃったのよ。マメな男よね。もちろん、追い返してやったけど」
由香の家も、そういえば、恵比寿のガーデンプレイスの近くだった。ということは、杏子が知樹と偶然の再会を果たしたのは、知樹が由香の部屋を訪ね、追い返された直後だったのかも知れない。
「あんなに下心が透けて見える人、絶対に嫌だわ。結局、強引に押せば、女は落ちると思ってるのね。彼が杏子と付き合えたのは、ただのラッキーよね。商社マンなんて、大人しくスッチーとでも付き合ってればいいのに」