32歳婚活女子が元カレから受けた苦い屈辱 東京カレンダー「崖っぷち結婚相談所」<15>
由香のセリフは、鋭いナイフのように、杏子の胸に何度も突き刺さった。杏子は、居たたまれずにオフィスを離れ、丸の内の仲通りに飛び出した。とにかく、外の空気が吸いたかった。
都会での婚活はもはや戦争だ
「やられた」
杏子は、ただ静かに、そう思った。発狂してしまいそうな気もしたが、自分でも気味が悪いほど、心は冷静に落ち着いていた。
昨晩、杏子が信じ安堵した知樹のセリフは、由香の言葉を借りれば、「薄っぺらい」口説き文句だったということだ。しかも、同時に何人の女にも乱用していたという。
あの日、由香にフラれた知樹の前に、自分はカモネギのようにフラフラと出て行ったわけだ。なんと滑稽な様であろうか。
たとえ半年という短期間であっても、真剣に付き合っていた元彼。
だから、信用しても大丈夫だと思っていた。知樹にとって、自分は未だに特別な存在であると、無条件に思い込んでいた。今となっては、付き合っていた頃ですら、彼が誠実であったのか、その真意も分からない。
「きっと、外銀女子が好きなのね」
由香のセリフが、杏子の頭の中で甦る。知樹は、まさか自分を、そんな括りで見ていたのだろうか。
広いようで狭い、都会のコミュニティ。特に港区近辺での婚活は、もはや戦争のようなものだ。誰も彼もが顔見知りで、小さな噂は瞬く間に広がり、男女は騙し合い、傷つけ合うのを止めない。友好的に和平協定を持ちかけられ、自分だけは一抜けたと安心しようものなら、このように寝首を掻かれるのだ。どうしようもないが、そういう世界なのだろう。地球上に戦争がなくならないのと、きっと理由は同じだ。
かく言う杏子も、実際、知樹を見くびっていたのかも知れないと、ふと思う。
「外銀女子の年収半分以下の商社マン」
そんな男が自分を尊敬しないはずはないし、小賢しい裏切りなど働くわけがないと、高を括ってはいなかったかと言われれば、素直にノーとも言えない。
しかし、問題は年収ではなかった。流石は、日本の国旗を背負って世界で活躍する商社マンだ。自分はまんまと彼を信用し、嵌められてしまったではないか。
生まれ持った美貌と知性にあぐらをかき、今までどれだけ、のんびりとおめでたい人生を過ごしてきたか、杏子はやっと理解した気がした。杏子は大きく深呼吸し、スマホを手に取る。
―ねぇ、私たちって、ヨリを戻したんだよね?―
知樹とのLINEに文字を打ち込み、一瞬躊躇う。しかし、杏子は思い切って送信ボタンを押した。
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