「しょうがない」という日本語の裏にある潔さ 自分の思い通りにならないから人は苦しむ

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私なら「It can’t be helped.」と口にするタイミングで、ネイティブの方は、「That’s life.」(それが人生だ)「That’s the way it goes.」(そうなるようになっているんだ)という表現を使っていました。共に何かを「あきらめる/あきらめさせる」という意味には変わりないのですが、どうも私が意図する「しょうがない」とネイティブの方々が意図する「しょうがない」では、少しニュアンスに違いがあるように思えました。それではこの違いとは何なのでしょうか。

ニュアンスの違い

ニュアンスの違いを明確にするために、日本語の「しょうがない」の語源を考えてみましょう。国語辞典によると、「しょうがない」は元来「仕様がない」と書くそうです。「仕様」とは「手段・方法」を意味します。つまり、「しょうがない」は「手段・方法がない」という意味から「あきらめる」という意味になりました。これは、もう打つ手がなく、自分ではどうすることもできないという境地を感じます。

よって、「It can’t be helped.」という「手立てがなく、助けられない/避けられない」という意味を表現する英訳は、日本語の「しょうがない」の意味に合致するように思えます。しかし、これはやっぱり日本語の観点から英語に翻訳した表現であり、実際の英語では違和感のあるもののようです。

一方、実際にネイティブの方が「しょうがない」という気持ちを英語で表現するときは、「That’s life.」「That’s the way it goes.」などのフレーズを使います。よく英語を分析してみると、これは「誰か」によって定められたというニュアンスを感じます。その「誰か」とは、おそらくキリスト教の「神」だと推察できます。

つまり、「神」によって運命が定められているのだから、「それが人生だ」「そうなるようになっているんだ」と言い聞かせて、物事をあきらめざるを得ないということになるのだと思います。ここに改めて英語というのは西洋文化・思想の中から生まれた言葉であることを感じます。

この比較によってわかるのは、日本語の「しょうがない」も、ネイティブの方が英語で表現する「しょうがない」も、結果的には共に「あきらめる」という意味になることは同じです。しかし、その結果に至る過程がそれぞれ異なるということです。ネイティブの方が表現する「しょうがない」という英語の表現は、人に物事を納得させるために何かしらの超越的な力や存在を用います。ある意味、強制的なニュアンスを感じます。

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