なぜ日本産MBAの「質」はこんなに低いのか 13年間早稲田で教えてきて悟ったこと
そのクラスを担当している専任教員が休暇をとることになり、つてをたどって私に授業の代行をしてもらえないかと依頼が届いた。それを引き受け、数日間の集中講義を担当することになった。そのクラスの受講者は30人くらいと聞いていたが、初日のクラスに行ってびっくり。30人のうちの6割ほどが、中国からの留学生だったのだ。
しかも、その20人近い中国人学生のほとんどは働いた経験がなく、日本語もたどたどしい。中国の大学を卒業し、実務を経験することもなく、そのまま日本のビジネススクールに留学してきたのである。
休憩時間に彼らと会話すると、何人かの学生は「本当はWBSに行きたかった」と言う。中国で「早稲田」は知名度も人気も高い。しかし、WBSに合格するためには3年以上の実務経験が必須である。結局、彼らは実務経験なしでも入学できるこのビジネススクールに流れ着いたというのだ。
中国人留学生の存在は、このビジネススクールにとっても好都合だった。開校当初はそれなりに日本人学生が集まっていたようだが、徐々に減少。定員割れの状態に陥り、中国人留学生で穴埋めをしていたという。
かわいそうなのは、こうした留学生たちと一緒に受講する日本人学生たち。彼らはそれなりの実務経験もあり、より突っ込んだ議論をしたいのだが、中国人留学生が過半ではそうもできない。結局、授業のレベルは低いほうに流れてしまい、学部と大差ない内容になってしまったのである。
わずか30単位でビジネスリーダーになれるはずがない
日本のMBAの「質」が低い1つの要因は、前回の記事でも指摘したように、専門職大学院の制度にもある。文部科学省は2003年度に「社会的・国際的に活躍できる高度専門職業人養成へのニーズの高まりに対応するため、高度専門職業人の養成に目的を特化した課程」(専門職学位課程)を創設した。専門職大学院の修了要件は「30単位以上」と設定されている。しかし、経営のプロ、次世代ビジネスリーダーを育てるというのに、わずか30単位は少なすぎる。
同じ専門職学位課程でも、法科大学院は93単位以上(標準修業年限3年)、教職大学院は45単位以上(うち10単位以上は学校等での実習)と設定されている。目的、内容が異なるので一概に比較はできないが、そもそも30単位でビジネスリーダーになれるはずがない。
もちろん30単位は「最下限」であって、大学によって修了要件は異なる。WBSは「50単位以上」、慶應義塾大学ビジネススクールは「60単位以上」と、30単位をはるかに超える修了要件を設定している。その一方で、大半のビジネススクールは30単位そこそこで卒業できる。
経営に関する知識をひととおり学ぼうと思えば、最低でも50~60単位は必要なはずだが、30単位ほどでお手軽に卒業できてしまうビジネススクールがいくらでも存在するのだ。
また、専門職大学院は一般の修士課程と違い、経営系では論文執筆が必須とされていない。だから多くのビジネススクールでは、論文執筆(研究指導)を修了要件として課していない。
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