日本企業で問題化する「なんちゃってMBA」 毎年5000人が誕生!そのムダと弊害

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もちろん、海外トップスクールのMBAをとることは、それ自体が「狭き門」をくぐり抜け、熾烈な競争を勝ち抜き、落第せずに学位を取得するという一つの実力と可能性を証明している。それ自体を私は否定しているわけではない。

しかし、ビジネススクールでは、「分析至上主義」を助長する理論やフレームワーク、ツールを山ほど教える。経営の本質ではなく、経営を単純化させる「薄っぺらいテクニック」ばかりが強調されるのだ。

知識は豊富だが、経験に乏しい人間にテクニックだけを教えると、テクニックに操られ、暴走してしまう。ミンツバーグの指摘から数年後、そうした人たちによって引き起こされたのがリーマン・ショックという金融資本主義の暴走であったことを、私たちは思い出すべきだろう。

「MBA粗製乱造」のきっかけは「専門職大学院制度」

ミンツバーグの警告から十余年。よもや米国のような事態になることなどないと思われていた日本で、MBAが問題化しつつある。1990年代まで日本のビジネススクールは、わずか数校にすぎなかった。しかし2000年代に入り、日本でもビジネススクールが全国で次々に設立され、現在、その数は大学数で約80、プログラム数で約100にも上る。それらのMBAプログラムから世に送り出されるMBA取得者の数は、毎年約5000人規模にもなっている。

問題の本質は、毎年生み出される5000人ものMBA取得者の「質」である。私は2003年から13年間、早稲田大学ビジネススクール(WBS)で教鞭を執り、中国やシンガポールでも教えた経験がある。日本経済の未来を築くエンジンとなる次世代ビジネスリーダーを育てる一助になりたいと思い、自分なりに奮闘努力してきた。しかし現在の日本のMBA教育が、MBAという学位に値し、次世代ビジネスリーダーとしての基礎教育をしっかり受けた人材をどれほど輩出しているかといえば、甚だ疑問なのだ。

多くの学生は、仕事のかたわらビジネススクールに在籍し、捻出した限られた時間のなかで与えられた教科書を読み、現実感の乏しいケーススタディをこなし、卒業に必要な最低単位を取得し、MBAを手に入れる。そこで「なんちゃってMBA」が、日本で急増しているのである。

こうした「MBA粗製乱造」のきっかけとなったのが、「専門職大学院制度」の創設だ。文部科学省は2003年度に「社会的・国際的に活躍できる高度専門職業人養成へのニーズの高まりに対応するため、高度専門職業人の養成に目的を特化した課程」(専門職学位課程)を創設した。そこで「ビジネススクールブーム」が到来し、2015年度の専門職大学院としてのビジネススクールは、31大学、33専攻にまで増加、入学者数は2274人に上った。

しかしいま、専門職大学院は岐路に立たされている。2004年度からスタートした法科大学院は、当初、法曹界をめざす社会人たちが殺到。しかし、弁護士資格を取得するための実質的なメリットが少ないことがわかると、志願者は大きく減少した。法科大学院への入学者数は2010年度には4122人だったが、5年後の2015年度には2201人とほぼ半減し、新規募集を停止する大学が急増している。

法科大学院などの惨憺たる状況に比べると、ビジネススクールは堅調にみえる。ビジネススクールへの入学者数は、2011年度の1861人に対し、2015年度は先にみたように、2274人と2割ほど増えた。しかし、それはあくまで全体の話にすぎない。日本の多くのビジネススクールは学生集めに苦労し、歴史ある名門校すら受験者が集まらず、ほぼ全入という状況なのである。

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