揺れる32歳女子、「元カレとの一夜」という罠 東京カレンダー「崖っぷち結婚相談所」<14>

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性欲どうこうの問題ではない。これまでの辛い婚活を通して、杏子の精神やプライドは思った以上に荒み、自分の価値が分からなくなってしまっていた。

知樹に求められたことで、杏子は少なくとも、自分の存在価値を確認できたのは事実だった。

不毛な婚活は、もう、したくない

――もう、このまま、知樹と一緒にいればいいんだわ。

勢いに任せてしまったという多少の罪悪感はあれど、杏子はやはりホッとしていた。これ以上、不毛な婚活は、しなくていい。もう、したくない。

久しぶりに見た知樹の寝顔は平和そのもので、寝息で上下する彼の身体を見ていると、杏子はほんのりと幸福感すら感じ始めていた。

一旦帰宅して出社するため、杏子は知樹を起こさずに部屋を出ることにした。再スタートを切った二人には、これから充分に時間がある。昼休み、杏子は婚活アドバイザーの直人に電話を入れた。

「直人さん、私、婚活はもう辞めます。今までお世話になりました」

「桜田様とのマッチングが、そんなに気に入らなかったんですか?気持ちは分かりますが、しかし、諦めるのは早いですよ」

「いいえ、違うんです...。私、実は元彼と戻ることになったんです。だから、相談所は退会します」

杏子は、なるべく平たい声で、シンプルに伝えた。彼氏が出来て浮かれている、単純な女だと思われたくなかった。

「元彼って...?以前話していた、商社マンの方ですか?どういう流れでそうなったんですか?」

直人は、いつになく前のめりな様子で、杏子に詰め寄る。毒舌ではあるが、婚活に親身にアドバイスをくれていた直人。しかし、やはり所詮、結婚相談所のアドバイザーなのだ。

相談所以外で杏子に恋人が出来てしまえば、彼らに成婚料は支払われない。だから、直人も焦っているのだろう。

直人にはだいぶ世話になったので申し訳なくはあるが、ビジネス上は仕方あるまい。杏子は、ざっくりと知樹との経緯を説明した。

「それは...、ハッキリと、結婚を前提に、交際を再スタートさせたという意味ですか?杏子さん、そこは白黒ハッキリさせておくべきですよ」

直人は、それでも食い下がる。

「私たちは、以前は真剣に交際していたんです。戻ったばかりで結婚の話はまだしていませんが、彼も立派な大人です。将来を考えていないなんてこと、ありませんわ。一度別れて、彼は私が一番だって気づいたんですもの」

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