迷走する国交省「ホーム転落防止会議」の実態 業を煮やした視覚障害者団体が立ち上がった

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今回、国交省の想定している「声がけ」とは、ホームの端を歩いている視覚障害者に「危ない」と声をかけることではない。視覚障害者に「お手伝いできることはありますか」と声をかけて、安全な場所まで案内することだ。これができれば、視覚障害者にとっても安心で理想的だ。

ただ、実現には人的負担が伴う。たとえば、ホーム上の係員は列車の安全確認という役割がある。列車が頻繁にやってくる時間帯に視覚障害者に声がけして安全な場所まで連れて行くという行動は難しい。視覚障害者が介添えを申し出るなら、それに対応してスタッフを増やす必要がある。

多くの鉄道会社は人員減を進めてきたが、今回の施策は人員増につながりかねない。簡単にはイエスと言いづらいだろう。この点について国交省は「鉄道事業者と議論を深めていきたい」と言うが、過去4回の検討会で議論が行われた形跡はない。果たして実効性のある結論が得られるだろうか。

ゼネコンの施設で鉄道体験会

ホーム転落時にどの位置にいれば安全かを学ぶ(記者撮影)

一般利用客が視覚障害者に声がけするということも検討課題となっている。5年前に利用客の啓発活動を行うことが決まっているので、12月のとりまとめを待たず、今すぐにでも実行すればよさそうだが、「一般の人が本当に声をかけていいのか視覚障害者団体に確認しなくてはいけない」というよくわからない理由で、国交省はあくまで手順通りに検討会を重ねた上で結論づけることにこだわる。

要領を得ない国交省の対応にしびれを切らしたかのように、視覚障害者団体が行動を開始した。

10月19日、千葉県の市原市福祉会館で社会適応訓練中の視覚障害者10名が中堅ゼネコン・鉄建建設の建設技術総合センター(成田市)を訪れた。鉄建が実施する視覚障害者向けの鉄道体験会に参加するためだ。建設技術総合センターは鉄建が鉄道工事の研修用に設立したもので、駅ホームや線路などの設備を持つ。鉄建はこれらの設備を使って2011年から千葉県立盲学校の生徒向けに鉄道体験会を行ってきた(アナタが知らない「駅のホーム」の危険な世界)。「実際の鉄道では触れて学ぶことが難しい、ホーム下の構造やレールとの位置関係を体感することができる」(鉄建)。今回は、千葉盲学校からの紹介で、市原市福祉会館が体験会に参加することになった。

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