「配偶者控除」の後継候補、「夫婦控除」とは? 所得税改革が年末の税制改正のテーマに

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では、仮に配偶者控除の代わりに夫婦控除を導入した場合、各家計にどのような影響が出るのだろうか。

財務省などは具体的な改革シミュレーションを公表していないが、大和総研の是枝氏は、全体として増減税のない「税収中立」を前提に、夫と妻の年収の組み合わせごとに詳細な試算を試みている。

たとえば、夫の年収200万円、妻の年収100万円、世帯年収300万円の低所得世帯の場合、現行の配偶者控除で5.2万円の税負担が軽減されている。所得制限をかけずに、すべての夫婦世帯に夫婦控除を導入すると、この世帯の税負担軽減額は4.5万円になる。つまり、現行より低所得世帯の税負担は増えることになる。しかし、夫婦のうち、所得の多いほうの年収を基準に所得制限をかけると、年収800万円で所得制限をかければ、低所得世帯の税負担は現行制度より減少する(税負担軽減額は5.4万円)。

配偶者控除を廃止して生じる増収分を、所得制限をかけずに広く薄くばらまけば、その分低所得世帯に恩恵が行き渡りにくいためだ。自民党の茂木政調会長が念頭に置いているとされる800万円から1000万円という所得制限は、この辺りの事情を考慮に入れたものなのかもしれない。

とかく最近の税制改正論議は、「制度変更によって誰が得をして、誰が損をするのか」という損得計算に終始しがちだ。消費増税の再延期に象徴されるように、増税への抵抗感も根強い。

所得再分配機能の回復も含めた議論に

財務省によると、現行の配偶者控除の適用を受けているのは約1500万人、減税額は約6000億円。配偶者特別控除は同約100万人、約300億円だ(いずれも2016年度予算見込み)。金額も、対象人数も大きく、制度見直しは多くの人を巻き込んだものになる。

仮に増減税のない「税収中立」で配偶者控除を見直すなら、配偶者控除の廃止で生じる増収分を、一定の価値判断で特定の層にばらまくことになる。その際の判断基準となるのはおそらく「低所得者」や「若年層」への支援になるだろう。

そのこと自体に異論はない。政府税調も昨年11月、「個人所得課税については、所得再分配機能の回復を図り、経済力に応じた公平な負担を実現するための見直しを行う必要がある」と指摘している。

また、この手の議論の弱点は税制だけ、企業の家族手当だけを変える、部分最適の議論に終始しがちだ。103万円の壁がなくなっても130万円の壁は残る。前出の是枝氏は「同じ世帯年収なら、現状の税制は共働き夫婦のほうが有利だ。配偶者控除廃止の是非が国民的議論となる中で、日本の税制は実は共働きを優遇しているという認識が広まっていくことを期待している。そうなれば、これ以上共働き夫婦を優遇したり、わざわざ負担増を強いたりしなくても、政権の狙いは実現できるのでは」と話している。

今回の配偶者控除の見直しをきっかけにして、社会保険料のあり方や企業の家族手当のあり方、それ以外の改革に議論をつなげていくことが重要だろう。

山田 徹也 東洋経済 記者

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やまだ てつや / Tetsuya Yamada

島根県出身。毎日新聞社長野支局を経て、東洋経済新報社入社。『金融ビジネス』『週刊東洋経済』各編集部などを経て、2019年1月から東洋経済オンライン編集部に所属。趣味はテニスとスキー、ミステリー、韓国映画、将棋。

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