日英ハーフの大学生を悩ますEU離脱の憂鬱 「心の拠り所」を失うかもしれない危機感

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英国のパスポートのいちばん上には、「European Union」と記されている(写真: lipowski/PIXTA)

今年初め、私は英国のパスポートを更新した。英国のパスポートは私にとって「宝物」のような存在だ。それは、ボルドー地に金色で英国の国章が描かれていて美しいからだけではなく、英国という国名の上に「European Union (欧州連合=EU)」と記されているからだ。

英国のパスポートは私にとってまさに欧州どこへでも行ける「黄金のチケット」であり、もうひとつの私の母国である日本のパスポートと共に、どこの国へ行くにも誇りを持って提示できるものだった。ところが6月23日、英国の国民投票によってEU離脱が決まったことにより、英国籍を選んだ友人(二重国籍を持つ人は22歳までにどちらかの国籍を選択しなければならない)は、自由に欧州へ行ける権利を失ってしまった。

英国民がEU離脱(Brexit)の決断を下してから2カ月以上経つが、この先どうなるのかまるで見えない中、一つだけハッキリしていることがある。英国のように多種多様な民族が混在する国では、Brexitはそれぞれにとって違う意味があるということだ。

ロンドン育ち、18歳で再び日本へ

特に2つの国籍を持つ私の場合、Brexitによって自らのアイデンティティが深く、大きく傷つけられたと感じている。

私は、今でも母方の親戚が多く住む福岡市の郊外で生まれた。3歳のときに父の祖国である英国のロンドンへ引っ越し、18歳になるまでそこで暮らした。ロンドンに越してからも毎年夏になると福岡の親戚を訪れていただけでなく、毎週末ロンドンの「補習校」に通って日本語の読み書きや日本文学を教わり、せっせと日本人の友達を作った。

私の日本に対する思いや、自らのアイデンティティを探る思いは年を追うごとに強くなり、ついに14歳のとき、毎年3週間の日本滞在だけでは満足できないことに気がついた。私は日本にもう一度、住みたかったのである。その夢は2014年にかなうことになる。必死に勉強した結果、晴れて東京大学に合格したのだ。

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