資生堂は"負の遺産"を清算できるのか? 前田会長が社長を兼務する異例人事の背景は

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今回の人事で物議を醸したのは、末川氏に代わり社長を兼務するのが前社長の前田新造会長であることだ。前田氏は11年3月まで約6年間社長を務め、前半は「TSUBAKI」などの巨大ブランドを育成したものの、08年度以降は停滞を招いた。消費者の好みが細分化する中で、巨大ブランドへの集中戦略を貫こうとしたため、他社にシェアを奪われ販売はピークアウトした。またドラッグストア向けの商品・販売戦略に後れを取り、美容部員によるカウンセリング販売体制を崩さず、人件費が重荷となり続けた。

前田氏はショートリリーフ

末川体制下でも前田路線から踏み出すことはなかった。社長復帰に対して「前田氏も末川氏とともに引退するのがスジ」との声も少なくない。

異例の人事に対する見方はさまざまだ。前田氏の「(資生堂の内規で定められている取締役任期の)4年はあっという間に来てしまう」との会見での発言は、長期政権を狙っているとの臆測を呼んだ。また「国内、海外ともに俯瞰でき、社長を担える能力のある人材がいない」(資生堂関係者)と見る向きもある。

ただ、社長の指名諮問委員を務める社外取締役の上村達男・早稲田大学教授は、今回の人事について「(取締役会では)負の遺産を清算する責任は、それを築いた前田氏本人にある、という判断があった」と明かす(関連記事:資生堂、実力派トップ復帰の「真相」)。

旧来のビジネスモデルを転換できなかったことに加え、ベア社の買収や異常な配当性向も前田氏の社長時代に端を発している。「この厳しい局面ではまったく新しい人に社長を任せるのは難しいし、酷だ。最大の責任者である前田氏には、従来とは異なる“格好悪いこと”をしてもらう。次のトップが全力でアクセルを踏めるよう、自らの手で経営を整備すべき。これが社外取締役の総意」(上村氏)。前田氏は、あくまで、つなぎ役としてのショートリリーフといった位置づけだ。

前田氏自身は「かつて自分が敷いた経営路線を否定することもあるだろう」と話す。同社は1月に鎌倉工場の閉鎖を発表し、今後は減配や減損、さらに事業領域の見直しや人員削減も浮上する公算が大きい。前田氏が背負った十字架は重く、資生堂再生に向け茨の道が続きそうだ。

(撮影:今 祥雄)

長瀧 菜摘 東洋経済 記者

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ながたき なつみ / Natsumi Nagataki

​1989年生まれ。兵庫県神戸市出身。中央大学総合政策学部卒。2011年の入社以来、記者として化粧品・トイレタリー、自動車・建設機械などの業界を担当。2014年から東洋経済オンライン編集部、2016年に記者部門に戻り、以降IT・ネット業界を4年半担当。アマゾン、楽天、LINE、メルカリなど国内外大手のほか、スタートアップを幅広く取材。2021年から編集部門にて週刊東洋経済の特集企画などを担当。「すごいベンチャー100」の特集には記者・編集者として6年ほど参画。2023年10月から再び東洋経済オンライン編集部。

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