鹿島、アルジェリア案件の失敗で学んだ教訓 なぜ日本のゼネコンは海外で通用しないのか

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和解金の額は明らかになっていないが、JVのゼネコン各社はこの和解が今期業績に与える影響は軽微とみている。とはいえ、4社がこれまでに引き当てた損失の規模を考えれば、アルジェリアの工事で負った痛手は、あまりにも大きい。

過去には、大林組が代表となって約2300億円で受注した「アラブ首長国連邦(UAE)ドバイ・メトロ建設工事」でも、契約内容を巡るトラブルなどで、工事代金を回収できず大赤字に転落したケースがある。現地国の政治的混乱や財政悪化の可能性、資材調達の不確実性などを考慮すれば、日本のゼネコンが海外で請け負う工事は、常に巨大なリスクと隣り合わせなのだ。

鹿島の場合、アルジェリア工事の代金支払いをめぐる交渉が長引いた一因について、「行政制度や商慣習の違いがあった」と説明する。

追加工事でも費用負担はゼネコン側

ゼネコンの海外事業は、国内の工事と比べ、1件当たりの規模や請け負い金額が大きいことが特徴だ。だが、「国によって、発注者との関係や税法の違いが複雑で、契約書を入念に読み込んでいても、工事の途中で支払いをめぐるトラブルになることは多い」(中堅ゼネコン幹部)。例えば、追加工事などの代金支払いにしても、発注者に要求するタイミングがずれると受け入れてもらえず、ゼネコン側で費用を背負う結果となることも多いという。

各社は、こうした海外での契約交渉に精通した人材の確保・育成に取り組んではいるものの、十分なリスク管理体制は構築できていないのが現状だ。ある準大手ゼネコン幹部は、「政府が間に入るODA(政府開発援助)案件や、日系企業が発注する工場建設などでない限り、海外の工事で資金回収をすることは相当難しい」とこぼす。

2020年の東京五輪やインフラ更新需要、首都圏再開発が重なり、国内の建設市場は繁忙が続いている。しかし、いずれは人口減少に伴い、投資が徐々に減っていくことは避けられない。多くのゼネコンは五輪後を見据えて、海外事業の拡大を経営方針に掲げている。そのときまでに、政治体制や慣習が異なる国での工事でも、確実に利益をあげられる力を身に付けることができるか。アルジェリアの教訓は、日本の建設業界に重い課題を突き付けている。

                         (撮影:今井康一)

真城 愛弓 東洋経済 記者

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まき あゆみ / Ayumi Maki

東京都出身。通信社を経て2016年東洋経済新報社入社。建設、不動産、アパレル・専門店などの業界取材を経験。2021年4月よりニュース記事などの編集を担当。

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