貧困の多くは「脳のトラブル」に起因している

「見えない苦しみ」ほど過酷なものはない

「だって稼げない子が逆恨みしてK(警察)にちんころ(通報)したら困るじゃん。保険だよ」

などと言っていたが、本来、稼げるはずの子からの文句を封じるために、ハモちゃんは自分の取り分を削ってこっそり渡すということまでしていた。

そして遅刻や無断欠勤など当たり前のこの業界で、ハモちゃんは無断欠勤者からペナルティを取ったり追い込みをかけて詰めるのではなく、まったく逆の方針で、出勤しているみんなから少しずつおカネを出し合って休業補償をするということまでした。もちろん大半はハモちゃんが自腹で払う。

これ以上書くと狭い業界で個人が特定できてしまうので控えるが、ちょっと空気が読めなくてすぐに暴力で解決する傾向はあったものの、その仲間思いで潔い自己犠牲にハモちゃん人気は急上昇。結果としてハモちゃんのグループは急成長し、枝の分家部隊を神奈川方面にも出すということになった。

2007年夏には上部の本部業者が摘発をくらって傘下の全部隊が逃散ということになったが、その後、ハモちゃんは18歳で福岡中洲の風俗嬢でデビューし、所属している店のホームページでフォトショップ加工なしでトップ画像になったとうれしそうに報告してきたりもしたものだ。

別人になってしまったハモちゃん

そんなハモちゃんから「なんか取材してほしい、ギャラ立てて」と連絡があったのは、震災の前年だから3年ぶりということになる。だけど、待ち合わせた横浜駅付近に彼女が現れたのは、約束の時間から3時間も経ってからだった。こうした取材では当たり前のことだが、ハモちゃんに限っては約束の時間は絶対に守る子だったので、なにか事故でもあったのではとやきもきしながら待った。

そして現れたハモちゃんは、あの利発で男前だった彼女とは別人になってしまっていた。

体形は少々丸っこくなった気はするが、容姿は相変わらず読モ級。だが、メイクがめちゃくちゃにズレているし、表情は弛緩ぎみで、反応がむちゃくちゃ鈍い。歩く姿は、歩幅が妙に小さくて、もつれがちだ。

「ハモちゃん、大丈夫? 聞いたら悪いかもなんだけど、なんか変なネタ食って(薬物を摂取して)ない?」

と聞くと、5秒ぐらい間をおいて「ひどくね? あたしそういうの嫌いなの鈴木さん知ってんでしょ?」。

そうだった。ハモちゃんが援デリの経営者だったときに、客の買春男から大麻を買った子に行き過ぎた鉄拳制裁を加えた話を聞いたことがあった。ならば、精神を病んで精神系の処方薬でも飲んでいるのだろうか? 弛緩した表情ながら必死ににらみつけようとするハモちゃんの顔は異様に歪んで不自然で、その目尻には涙が浮かんでいた。

ファミレスに入り、事情を聞いた。カネに困っているらしい。中洲で風俗デビューしたというハモちゃんは、その年のうちに付き合っていた彼氏とデキ婚するも、相手の男が壮絶なDV男だった。骨折をするケガを1回。さらに男が勤めていた仕事をクビになると、まだお腹の子供の安定期にも入っていないにもかかわらずに売春の客をつけられた。

中絶手術ができる時期はとっくに過ぎていたが、売春を続けていれば流産するかもしれないと思ったこともあった。絶対に頼りたくはなかった実家の母に電話をしたら、戻って来いと言われて救われた。これが臨月。

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