「子なし夫婦」のなかなか理解されない実態 少子化対策の大義名分が彼と彼女を苦しめる
子なしハラスメント――。子どものいない人を不快な思いにさせる行為だ。少子化が進む中、世間には子を持つことを奨励する空気で満ちている。だが子どものいない人にとっては、「子どもはいないの?」と聞かれることすら苦痛に感じるときがある。
「集団的いじめの構造を説明した社会学の理論がありますが、A君はからかっている、B君は遊んでいる、C君はふざけているというふうに、それぞれはいじめているつもりがなくても、ターゲットのD君はそれが度重なることでいじめられていると苦痛になることがある。だからいじめかどうかは『受け手』の気持ちで定義されるようになりました。もしかすると、子なしハラスメントも、同じ構造だと思う」
山本さんにとって、見えない「子なしハラスメント」が軽減される一番の解決法は「子どもがいようがいまいが、気兼ねなく休みの取れる環境をつくる」こと。職場で子どもがいない人にしわ寄せが来ないような社会の余裕ができれば、個々の心の持ちようが大きく変わるのではないか。そうすることで子なしハラスメントの受け止め方が違ってくるのではと考えている。
夫婦で納得できなければ、子はいらない
2010年の国勢調査によると夫婦のみの世帯数は1024万に上る。そのうち子育て世代とみられる妻の年齢が20~54歳の世帯は289万と決して少なくない。国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」に初婚同士の夫婦の妻を対象にしたアンケートがある。それによると「結婚したら子どもを持つべきだ」という考え方に対し、「反対」と答えた人は2010年で24.3%。約4人に1人は子どもを持つという考え方に執着していない。しかも1992年の9.6%から大幅に増えた。夫婦の意識は確実に変わってきている。
養護教員の佐藤加代さん(仮名・32)は結婚して8年。医師の夫(34)とは子どもを持たない考えを共にしている。学校で生徒たちと接していると、親の期待を背負いすぎてしまったり、親との関係がうまくいかなかったり難しいケースにも遭遇する。自分自身は子どもに愛情を注ぎながら、見返りを求めずに育てることができるのか。
子どもをもうけることには、大きな責任が伴う。30歳を目の前にして子どもを持ちたいと心が揺れたこともあった。今は「子育ての経験が人生にとって必要」と心から納得できなければ、持たなくてもよいと思っている。毎晩一緒に食事をしながら、日本国内や海外旅行にもふたりで出かける夫婦の生活は充実している。ふたりの時間は大切にしたい。