攻撃におけるサイドチェンジのパスを例にしよう。
ザッケローニ監督は攻撃のときに、相手を引き寄せておいて、一発のサイドチェンジのパスで局面を打開することを求めている。左にいる遠藤から、右サイドにいる岡崎慎司に長いパスを出すという感じだ。うまくいけば、岡崎が相手陣内深くに進入できる。
だが、遠藤自身はまったく逆の考えを持っている。
「サイドチェンジをしたら、敵と1対1になる場面が多い。取られたらカウンターを食らって、不利な状況に陥ってしまう」
遠藤はサイドチェンジに否定的。つまり、ザッケローニ監督が求めるプレーと、遠藤の哲学は完全にバッティングしているのだ。
いったい、この齟齬をどう解消しているのだろう?
「ダメって言われてもやる」
遠藤は言う。
「僕は監督の指示に、合わせられるんですよ。サイドチェンジを有効に使いたい監督であれば、そこは別に自分の気持ちとは関係なくやります。でも、ピッチの状況は、そこにいる人間にしかわからないのでね。結局、やるのは選手。だから自分が『サイドチェンジをして大丈夫かな?』と少しでも不安を感じたら、大抵しません」
この“ほどほどにしか従わない”というスタンスは、バックパスの指示に対しても同じだ。
ザッケローニ監督は「なるべくバックパスはするな」と選手たちに伝えているが、遠藤は「バックパスは有効」と考えている。当然、ピッチで優先するのは自分の判断だ。
「ザッケローニ監督は『できるだけ前を向いて、サイドをしっかり使おう』と言うんですが、僕はバックパスも嫌いじゃないので、ダメって言われてもやります(笑)」
これだけ堂々と「ダメって言われてもやる」と宣言する選手も珍しい。だが、大前提として「監督の指示に合わせる」という姿勢を打ち出しているので、まったく問題にならないのだ。他の選手だったら、すぐ「監督に造反」と新聞に騒ぎ立てられてもおかしくない。
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