冒頭にも登場した神山町は、ITサテライトオフィスの誘致に成功しているほか、職業訓練を目的とした「神山塾」が首都圏からの移住者に大人気。町は今、年間約3000人の視察者を受け入れるほど注目を浴びています。
株式会社リレイションの代表で、この地で長く地域再生を手掛ける祁答院(けどういん)弘智氏は、地方創生における「成功モデル」の横展開がいかに難しいかを痛感してきたそうです。「受け入れる側も覚悟がない場合や、受け入れ態勢がないエリアも多いですから」(祁答院氏)。
一方、プロに丸投げしてしまうのも考え物のようです。都会から地域再生コーディネーターのような再生請負人がやってきたという例はよく耳にします。しかし祁答院氏は「そのような『首都圏→地方』の形だけでは、どうしても押し付けのプランになりがち」と言います。
「こうすればどこでもうまくいく」という、決まったやり方がないということは、裏を返せば、地域活性化の答えは、その地域にこそ眠っているということかもしれません。国や周囲の地域の動きばかり見ているのではなく、「自分たちの地域は自分たちでやる」という主体性こそが、パワーを生み出します。
地域ごとに「違う答え」があるはず
「地方創生」の問題に限らず、私たちが日ごろ働く職場も同じですよね。指示ばかりする上司がいる現場では、部下は自分で考えることをしなくなり、いつの間にか「指示待ち」になってしまうものです。
「地方がヤバイとか、人口減少がひたすらマズイとかいう国(社会)の思い込みが、本来の地方創生を停滞させたり、新しい取り組みを阻害していると感じる時があります。何人移住した、何人参加した、何個売れた、いくら儲けた、などとは別の、各地域のモノサシで地方創生の成果を計ることができればいい」(祁答院氏)
何をもって地方創生とするかは本来、地域の人が自分たちで判断することなのでしょう。そこに暮らす人々が地域の魅力に気づき、生きる意味を再定義できることを「成功」とするなら、観光客や移住者を増やすことなどは、絶対的指標ではないのかもしれません。
東京から徳島へ移住し、廃校になった学校を再生して「ハレとケデザイン舎」を立ち上げたデザイナー・植本修子さんは、「地方に目を向けるなら、実際にそこに住んでみる、事業を始めてみるなど、どんどん行動したほうがいい」と力説します。
「地方創生に関する著名人のセミナーなども役に立つ場合はありますが、自分のかかわりたい地域に直接的な効果を発揮するかは、正直わかりません。『机上の空論』におカネを投じるなら、地方で実際に始めようとする小規模事業にも資金を回してほしい」(植本さん)
地方創生は巨大なテーマで、全体像に迫るのはなかなか難しいこと。ただ、全体に通じる成功法を導き出そうとすること自体、間違っているのかもしれません。初めからあったものを活用し、地元の人たちが時間をかけて少しずつつくりあげた「地方創生の具体的な形」にこそ価値があると感じました。
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