「架線なし」蓄電池電車が世界で増える理由 鉄道もハイブリッドなど次世代型になった!

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JR烏山線を走る蓄電池駆動電車、EV-E301系。パンタグラフの部分に充電用の架線がある(筆者撮影)

続いて紹介するのは栃木県を走るJR東日本烏山線だ。こちらは全線に架線がない非電化路線で、キハ40系ディーゼルカーが走っているが、昨年からそこにEV-E301系が1編成導入され、1日3往復している。

こちらは電気自動車に搭載例が多いリチウムイオン電池を床下に搭載している。電池性能が2両合計で190.1kWhと、ハイブリッド車両と比べて格段に大きいのは、約20㎞を蓄電池だけで走行しなければならないからだ。

同じJRのハイブリッド車両やニースのLRT車両と異なるのは、蓄電池を屋上ではなく床下に配置していることだ。蓄電池はそもそも重量が嵩む。大容量となればなおさらであり、走行安定性を考慮してこの場所に設置したようだ。そのため本来床下に配置される機器の一部を、床上の機器室に収納している。

烏山線の列車は、多くが東北本線宇都宮駅を起点・終点とする。EV-E301系も例外ではなく、電化されている東北本線ではニースのLRT車両と同じように、走りながら充電を行う。さらに終点の烏山駅には充電専用の架線とそのための変電所がある。乗務員に聞いたところ、充電は約15分で完了するという。

蓄電池車が日本の鉄道技術の鍵に

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EV-E301系の床下に搭載された蓄電池(筆者撮影)

EV-E301系が開発された理由は、ハイブリッド車同様、環境対策という側面が強い。日本では今後、福岡県の筑豊本線や秋田県の男鹿線でも同様の車両が走る予定となっている。

蒸気機関車をディーゼルカーやディーゼル機関車に置き換えることを、無煙化と呼んでいた時期があった。しかしディーゼルエンジンも排出ガスは発生する。それもNOxやPMなど、大気汚染の元凶となる有害物質が含まれている。

近年のディーゼルエンジンは、鉄道用も自動車用も、これらの有害ガスの排出を抑えるべく、コモンレール方式などの新しい技術が投入されている。しかし旧式なエンジンを積んだ車両も引き続き使われており、アジアやヨーロッパでは大都市の大気汚染の原因のひとつと言われている。

ゆえに排出ガスを発生しないモーターとの併用が考えられるようになった。これがハイブリッド方式だ。しかし技術の進歩とコストダウンに伴い、エンジンなしでもある程度の距離を蓄電池だけで走行できる車両が実用化しやすくなった。蓄電池電車増加の背景にはこうした理由がある。

いずれの車両も、乗車感は通常の電車と変わらない。同じ電気を使って走るのだから当然だ。つまりニースでは架線の有無を感じさせない。逆に烏山線では、ディーゼルカーとはあきらかに違う、電車的な走行感覚を近代的だと感じる乗客が多いだろう。

車両用蓄電池の主力であるリチウムイオン電池は、日本の研究者が発明した技術であり、ハイブリッドカーや電気自動車の技術では、日本が世界の最先端を走っている。日本の鉄道技術を世界に売り込む材料のひとつとして、蓄電池電車は重要な鍵になるのではないかと期待している。

森口 将之 モビリティジャーナリスト

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もりぐち まさゆき / Masayuki Moriguchi

1962年生まれ。モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『富山から拡がる交通革命』(交通新聞社新書)。

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