ただし宗教規範そのままに政治が行われているのでもない。ここは規範のくびきを離れて認識しなければいけない。神に命じられた規範を人々が信じているからこそ、その規範を振りかざして政治権力を奪い合うことに政治的利益が発生する。それは国の単位でも国際的な単位でも行われている。欧米対イスラム世界には現実政治に宗教規範のかかわる関係がある。
日本のガラパゴス的な外国理解の典型
――日本ではエマニュエル・トッド氏の解釈も多く読まれています。
この本では以前に書いたエマニュエル・トッドにさんに関する秘蔵のコラムも収録した。
日本で最近新書でも人気を博しているトッドさんは、人口学者。二つの著書『移民の運命』『文明の接近』をきちんと読まずに勘違いすると、「みんな一緒と思いたい。なんとなく反米」といった、まったく別個の日本人の琴線に触れるところが多々ある。
内容を礼賛している人たちの言うことを聞いていると、日本のガラパゴス的な外国理解の典型と言っていい。欧米の「権威」を文脈抜きにして持ってきて崇め奉り、なり替わって日本で講釈し、ちょこっと反米・反体制の気分になって憂さ晴らしする。しかしその「権威」の先生が欧米の文脈ではどのように特殊で個性的なことを言っているかを、理解しない。
トッドさんの主著を読むと、とてつもなく面白いが、かなり特殊な説であると本来はわからないといけない。フランスへの移民は、アラブ人やイスラム教徒でさえも、フランス流の恋愛でアヴァンチュールを楽しみランデブーすると、ドイツと違って統合がうまくいく、米国と違って文明は衝突ではなく接近する、という面白いがかなり特殊な説だ。
フランスで移民系の若者によるテロが続発すると、統合がうまくいっているなんてウソじゃないか、とトッドさんは批判を浴びているのだが、日本ではこの突っ込みを誰も入れないので安心して新書で放談している。
本来は『文明の接近(ランデブー)』というタイトルを見ただけで、にやりと笑うべきなのだ。それが正しい読み方だ。最高に知的な本は最高にうまくできた冗談・馬鹿話に近いことがある。それがフランス文化の神髄なのだ。それなのに日本では立派な肩書の先生方が寄り集まってくそまじめに「トッドによれば」と訓詁学をやっている。
私の本では、トッドさんのような例を含む、欧米とイスラム世界の生々しく入り組んだ関係を多方面から読み解いている。
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