全国346路線「10年間の鉄道自殺」ランキング 地下鉄や地方路線含め1件単位まで全公開
ひとつは、事故概要に「飛び込んだ」など自殺とみられる記載があっても、原因欄では自殺となっていない場合があることと、自殺のすべてが報告されているわけではないことだ。
「ホーム上から飛び降りて軌間中央で立ち尽くす」
「ホーム手前端付近から飛び降りる」
「ホームから小走りに線路内に飛び降りしゃがみ込んだ」
これらは兵庫県内を走る山陽電鉄本線の事故概要の一部である。この表現を読む限りでは、いずれも自殺とみられるが、原因はすべて「線路内立入り」となっている。つまり自殺ではない。
国土交通省鉄道局の安全担当者によると、自殺として記載されるのは警察が認定した場合だ。実際には自殺ではない可能性や、自殺と記載しない何らかの事情があるのかもしれないが、詳しいことはわからない。
もう一つの問題は、鉄道会社にはそもそも自殺に関する報告義務がないことだ。
人身事故が起きると、鉄道会社が国交省に概要を報告することは、国交省令「鉄道事故等報告規則」に定めがある。
同規則は、「列車又は車両の運転により人の死傷を生じた事故」を鉄道人身障害事故と定め、脱線や衝突、踏切事故などとともに、「鉄道事業者は(…)発生の日時及び場所、当該事故等の概要及び原因、被害の状況」などを「提出しなければならない」と報告を義務付けている。
30分以内なら報告されない
問題になるのは自殺の扱いだ。行政上、自殺は鉄道人身障害事故に含まれない。自殺の場合、例外を除いて提出義務がないのだ。
例外というのは、身近なところでは、旅客列車の遅れが30分以上に及んだときだ。
同規則では、自殺は鉄道人身障害事故と異なる「輸送障害」に分類されており、輸送障害で報告義務が生じるのは、「旅客列車にあっては30分以上、旅客列車以外の列車にあっては1時間以上の遅延を生じたものに限る」。
つまり、人身事故の発生から30分以内に運転再開し、警察が自殺と認定した場合、鉄道会社は報告しなくてもいいのだ。6014件の自殺の中に、例えば京急本線の自殺割合が低いのは、運転再開までの時間が短いためだろう。また、JR新小岩駅で自殺が多発するきっかけとなった2011年7月12日の人身事故も、なぜか整理表には記録がない。
したがって、図表および本文中の鉄道自殺数は、正確には件数の前に「少なくとも」がつく。集計期間中の鉄道自殺数は、「少なくとも6014件」というわけだ。
鉄道システムの安全・安定を維持するという観点からも、国や鉄道会社はホームドアの設置など鉄道自殺を防ぐべき施策を講じなければならない。それにはまず、現状の実態を正確に把握することが必須で、そのためにはすべての自殺が報告されるべきではないだろうか。しかし、国土交通省鉄道局の安全担当者に聞くと、そのような方向での検討は、「ない」という答えが返ってきた。
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