「給付型」奨学金が日本の貧困層には不可欠だ 成績だけで決めるべきでない本質的理由

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――進学を決める時点で貧困であっても、高等教育を受けて将来的にリターンを取ることができるなら、貸与でいいのではないかという声も根強い。

そういった考え方はよく聞きますが、それは「持てる者」の論理です。どのような状況に置かれた人でも、「大学に行ったら、これくらいの所得が望めるから、借りても大丈夫だ」と合理的に計算できるという前提で語られています。

しかし、貧困にある人が経済合理的に考えることは、簡単ではありません。奨学金という名の何百万円もの借金を背負う選択を取ることは、普通しないんですよ。貧困者ほど、行動経済学的にいうと、「トンネリング」を起こしている。

――「トンネリング」とは?

トンネルの中を走っていると、外のことはまったく見えず、出口に見える光しかわからない状況ですよね。短中期的なことに精いっぱいになって、長期的に合理的な行動ができなくなる、視野狭窄状態のことを「トンネリング」といいます。こうした知見の蓄積があるのが、国家が発展するプロセスを分析して低所得国の発展戦略を明らかにする、開発経済学の分野です。

命を守るはずの保険が、貧困層には売れない

インドでの事例を挙げてみます。日照りが起きると畑が壊滅してしまい、作物が取れなくなることで、結果として人々は死に至ります。この問題を解決するために、先進国からNGOが現地に進出し、天候によるリスクに備えた保険を提供することにしました。しかし、これが貧困層には人気がなく、全然、売れなかったのです。

普通に考えれば、この保険に加入しておけば、いざという時に死ななくて済むわけです。小額の掛け金を払うことにためらうことはないはずですよね。そこで、彼らは「貧困状態にある人は、そもそも経済合理的な行動を取ることができないのではないか」と気づいたのです。

――日本の高等教育への進学の場面でも、同じことが起きていると。

30年くらいの長期的な視点に立ってみれば、大学に進学して就職活動したほうが正社員になる確率も上がるから投資しても大丈夫なはず。しかし、借金をしてでもいいから教育に投資するべき、とは考えられない現実がある。

しかも、かつては大学を出れば正社員になる道はある程度確保されていましたが、今は4割が非正規雇用。大学を出ても、必ずしも正社員になれる時代ではない。投資が合理的に返ってくるか不透明になっていて、リスクが高くなっているので、なおさら投資を行うことが難しくなっている。

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