奨学金を使い込む「困窮する親」の悲惨な現実 「未成年への貸付」が歪みを生み出している

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奨学金流用の実態について、聖学院大学(埼玉県上尾市)の奨学金事務担当者は、次のように話す。

「生活が厳しく、本人はおろか、家族全体の生活費に充てられてしまっていることがある。兄弟も大学に行っていて、奨学金はその兄弟の学費に充てられているといったことも……」

奨学金という形で貸与を受けても、おカネに色がついているわけではない。一度口座に振り込まれてしまえば、どのように使われるかは管理する人の手に委ねられる。特に、母子家庭ではこのような困窮を原因とした流用が見られるという。

奨学金事務担当者が、奨学金をどのくらい借りているのか、無利子の一種なのか、有利子の二種なのかという基本的な事柄を本人に聞いても、「親が管理しているので分かりません」と言われることもある。借りる段階では、本人が債務を負うことについて承諾する書面を提出する必要があるが、数百万の借金を、本人が完全に理解することなくお金が渡っている状況があるようだ。

こうした状況に、大学も苦労が絶えない。月に8万円の奨学金を借りていれば、少なくとも学費は支払うことができるはずなのだが、そうはなっていない。奨学金を借りているにもかかわらず、学費未納という事態が起きているという。どのように対応するのだろうか。

学費未納の場合は、奨学金の増額を勧めている

「奨学金の増額を提案している。本当に一時しのぎだが、退学・除籍になってしまうことを防ぐために、やむなく手を借りている。目先の解決だけど、1メートルしか視野がなかったのに、それが5メートル視野が広がれば、そこに賭けるしかない」(前述の担当者)

小規模の大学であれば、個別に、柔軟な対応が可能だ。一方で、比較的学生数の多い大学ではどうだろうか。2万人近い学生が所属する専修大学(東京都千代田区)の奨学金事務担当者は、「退学の理由については簡単に確認するが、それ以上深い事情に立ち入ることはしない」と話す。学費未納であれば、淡々と退学の手続を進めていく大学も少なくないようだ。内容がデリケートなだけに、当事者に立ち入った話をすることは難しい。細かい実態はなかなか掴みにくいという面もある。

奨学金問題に詳しい鴨田譲弁護士は、「数は多くないが、こうした事例はたしかに存在する。また、旧日本育英会の時に貸与されたケースだが、親が勝手に奨学金を借りていて、いきなり本人に督促が来た例もある」と語る。

大学を中退したとしても、貸与を受けていれば奨学金は本人の債務として先々も残ってしまう。大卒資格を得られず、借金だけが残ってしまうという状況は深刻だ。

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