東芝は債務超過転落を回避できるのか 医療事業売却スキームには異論も
この期間の短縮が認められるケースもあるが、東芝が「キヤノンを優先する」と発表した今月9日を売却手続きの起点とすれば、東芝メディカルの株式をキヤノンに直接譲渡すると、3月末までに競争法上の審査を完了させるのは、ほぼ不可能に近い。
一方、売上高がなく独禁法上の届け出が必要ないMSHに東芝メディカルの議決権を一時的に持たせれば、独禁法の審査を待たずに事業事譲渡が実現できる、というのがスキームの狙いとみられる。キヤノンはすでに6655億円を東芝に支払い、今月17日に決済を完了済みだ。
「なんとかして株主資本の挽回を図りたいとの思いもあった。何かひとつリスクが顕在化すると(株主資本が)マイナスに転じることもある」と東芝の室町正志社長は今月18日の会見で、特殊なスキームを使った意図に言及した。キヤノンによる東芝メディカルの買収は重複事業がなく、各国競争法の審査で買収が認められないような要素はないとみられている。
国内企業としては珍しい手法
しかし、今回のスキームについて、M&Aに詳しい外資系法律事務所の弁護士から「国内の企業間でこのような手法を駆使するのは珍しい。なぜこんなやり方を取ったのか疑問だ」との指摘がでている。
日本の独禁法には株式の譲渡制限の規制を免れることを禁じる規定(17条)がある。独禁法に詳しい大東泰雄弁護士は「形式的には違法な形にしていないが、全体のスキームとしては脱法的な行為ではないかという疑義は持たざるを得ない」と指摘する。
同じく独禁法を専門分野の一つにしている矢吹公敏弁護士は、「東芝を救済する利益と、企業結合で守るべき市場での競争維持という利益のバランスだと思う」と述べた。その上で、「今回のような方法は手続き回避行為として罰則で対応すべき行為だが、競争状況が問題なければ、場合によっては例外的な事案として認められることがないわけではない」と語る。
公取委の幹部は、東芝とキヤノンが採用したスキームが独禁法に抵触するかどうかについて、「企業結合の個別の案件にはコメントできない」と述べている。