「中国リスク」徹底検証 対立長期化に備えよ
「国有化がベター」との日本側の説明は通じず
日本側の誤算は、まさにここにあった。中国側は国有化の方針を理解しつつ、国内向けのポーズとして反対しているだけだと判断したのだ。
そもそも日中の対立が先鋭化するきっかけは、4月に石原慎太郎前東京都知事が米国で都による尖閣購入を宣言したことだ。仮に都が保有した場合、灯台などの新設が予想され、「実効支配をさらに強め、現状を崩す動き」として中国側が反発を強めると予想された。
そのため、日本側は「国有化して政府のコントロール下に置いたほうが日中双方の利益になる」と説明。中国側もその言い分には一定の理解を示してきた。6月には山梨県・河口湖での日中戦略対話でも、佐々江賢一郎・外務事務次官(当時)が、中国の張志軍・外交部筆頭次官に日本側の見解を伝えている。
事務方トップに説明したにもかかわらず、国家指導部に何の根回しも行われていなかったのか。だとすれば、中国の外交当局に当事者能力はないのではないか──。日本側はそうした不信感を抱えている。
共産党が政府に優越する中国では、対外交渉の担当者に権限がないケースが珍しくない。だが、今回の場合は、より事が深刻なようだ。
石原・野田共謀説で中国指導部は固まる
「今や中国側は、石原氏と野田首相は最初から共謀して国有化を進めてきたと見なしている。指導部がそう断定してしまえば、現場レベルの働きかけは意味を成さない」(北京の日中関係筋)。日中の政治家同士の交流が極めて希薄になったことのツケが、最悪の形で回ってきた。日本が対中強硬策に出てきたという誤解の下、中国も徹底的に争う構えだ。