県立静岡がんセンターの挑戦、病院と企業をつなぎ医療現場のニーズを形に
そのための環境も整えた。ファルマの本拠地であるがんセンター研究所には、サンスターを含め7の企業や大学が入室。病院と研究所は連絡通路でつながっており、まさにベッドサイドで医療従事者や患者の生の声を聞くことができる。実際、がん医療の現場を訪れたサンスターの研究員は、衝撃を受けたと言う。「歯肉ごとがんを摘出し、おなかの筋肉や骨を入れた患者さんの口の中など、それまで見たことがなかった」。その衝撃が開発への力となった。
海外から視察団も 目標は米ハーバード大
昨年からは、高砂香料工業とがんセンターとで、がん患者特有の病臭を減らす研究も始まっている。がん細胞が壊死し細菌感染を起こすことで発生する病臭は、患者・介護者双方に精神的な負担を与える。QOL(生活の質)改善の視点からも注目を集めている。
プロジェクト発足以降、9年間で製品化にこぎ着けた事例は20件余り。少ないようだが、医療関連の開発では、安全性を証明するための申請だけで数年を要する。「これまであきらめていた案件が、ファルマの存在で着々と形になっている」と、植田勝智・ファルマバレーセンター副所長は話す。
今夏には新しくワークショップも立ち上げた。医師や看護師に加え薬事や知財、マーケティングなどそれぞれ専門分野の人を集め、チームで話し合う。現場から出たアイデアを評価し、最短で具現化するのが目的だ。「単なるコーディネーターではなく、今後はコンサルティングの役割も果たしたい」(植田氏)と言う。
もともと静岡県は、医薬品・医療関連機器の一大生産県。その額は順調に増え、06年は全国首位に躍り出た。昨年はフランスの医療クラスター代表団が視察に訪れている。
山口建・静岡がんセンター総長は、「米ハーバード大学は400年をかけ、2000社規模の企業を集めたクラスター(産業集団)を作った。国内外企業と連携強化し、いずれはハーバードに匹敵する規模にしたい」と話す。医療現場と企業とが結束し、世界に視野を置く意欲的な挑戦が、静岡から始まっている。
(前野裕香 =週刊東洋経済)
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