県立静岡がんセンターの挑戦、病院と企業をつなぎ医療現場のニーズを形に

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 都内のがん専門病院で20年間勤めた大田医師には、熱い思いがあった。「今の日本では、がん医療における口腔ケアがあまりに軽視されている。手術前後のケアで(がんの)治療成績が驚くほど改善するのに」。放射線治療で唾液を出す細胞が損傷すると、会話さえ困難になるほど口の中がカラカラに乾いてしまう。痛くて歯磨きを怠った結果、衛生状態が悪化し、敗血症など新たな病気を併発する例が後を絶たない。だが、頭頸部がん手術後、口腔内に無菌環境をつくるのは不可能とされてきた。

02年、静岡がんセンターに移った大田医師は、手術前後の口腔ケアが合併症の軽減に最も有効との研究成果を手にする。口腔ケアに対する確信は深まったが、既存品には問題があった。使用するスポンジブラシは手術直後の過敏な口腔には硬く、洗口液も刺激が強すぎる。「思うように歯が磨けない」と訴える患者に、何度も水でうがいすることしか指示できない。荒れた口腔でも使える製品がぜひとも必要だった。

大田医師の話を聞き、ファルマは歯科製品を開発するサンスターに白羽の矢を立てた。持ちかけられた側のサンスターは、これを機に静岡に研究拠点を持つことを決定。江口徹・サンスター静岡研究所長らは最初の半年間、ひたすら症例を見、患者の話を聞くことに徹した。ショックだったのは、低刺激を謳う自社品を使ってもらったときのこと。患者は飛び上がって「痛い!」と叫んだのだ。刺激の元である香料を減らした製品だが、口内炎のひどいがん患者には不十分だった。

粘膜に刺激が少なく、乾燥を和らげ、口の中をサッパリさせること。この3点を最優先し、洗口液や保湿剤など5製品から成るバトラーシリーズは完成した。

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