(第12回)<乙武洋匡さん・後編>のび太もスネ夫もジャイアンも認めあえるクラスを作りたい

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●自分が受けた恩は下の世代に返す

 先月、教員免許が取れ、もうあと少しで先生になります。スポーツライターは休業です。
 高校のアメフト部の先輩によく食事をごちそうになりました。冗談で、「先輩、僕も、出世払いをしますからね」って軽口を叩いたことがありました。その時に先輩が珍しくまじめな顔をして、「もし、お前がそう思ってくれているんだとしたら、それは俺に返すんじゃなくて、下の世代に返してやってくれ。俺も先輩たちからこうして受けて来た恩をお前たちに返してきているんだから」と。僕の中でこれはすごく強く印象に残っています。
 親や先生方から受けた恩を、下の世代や社会に返していかなければいけないと思いました。もちろんスポーツライターもすごくやりがいのある仕事なんですが、よりパブリックであり、社会的な貢献ができる仕事を、活動をしたいという思いが芽生えてきたので、教師を目指しました。もっとスポーツライターが儲かる仕事だったらふん切りがつきにくかったかもしれませんけどね(笑)。儲からない仕事から儲からない仕事への転職です(笑)。

●教師としての抱負

 今までは、家庭と地域社会と学校の三者が、トライアングルでうまいこと役割分担しながら子ども達を育てていたと思うのです。それが今家庭では、おじいちゃん、おばあちゃんは一緒に住んでいない。親は働きにでて家の中には子どもしかいない、など、家庭の教育力というのが低下している。地域社会はどうかというと、隣近所に住んでいる人の顔さえもわからないという状況。近所のおじちゃん、おばちゃんたちが、「こら!」って怒ってくれたり心配してくれたりという社会でなくなってしまった。
 三者のうちの二者が十分機能しない状況で、こうなると学校が、しつけもやってくれ、自然体験もさせてくれなど、いろんなことを担わされてしまい、パンク寸前になってしまっている。学校は今批判される対象になっちゃっていますが、手をつないで一緒に子ども達を育てていくパートナーと見て欲しいなと、保護者や学校を批判している人たちへのお願いです。

 最後に、僕の教師としての抱負は、「のび太くんでも居心地のいい学校、クラスにしたい」です。のび太くんはテストをすればいつも0点だし、喧嘩も弱い。ジャイアンとスネ夫にいつもいじめられているんですけど、あの漫画の中だとあやとりが天才的にうまいんですね。
 大人って、個性が大事だと口では言っておきながら、勉強ができると安心するんですよ。「お前はいい子だね」と言います。いくら足が速くても勉強ができないと「お前、何やってるんだ」って始まるんです。それはやっぱり子どもを窮屈にさせていると思うのです。勉強ができることももちろん素晴らしい特徴だし、かけっこが速いことも、ピアノが上手なことも、絵が上手に描けることも、一番元気な挨拶ができることも、あやとりが上手なことも、みんな、いろんな一番があっていいんだと思うんですよね。だから、ジャイアンやスネ夫が、「のび太、お前は確かに勉強もスポーツもできない。でも、お前はあやとりが一番うまいんだよな」って認めてあげるようなクラスを作っていきたいと思っています。

 ただ、いきなり1対1の関係を40通り作ろうとするからひっちゃかめっちゃかになって、学級崩壊が始まっちゃうケースもあると聞きます。いきなり個を大事にしすぎてしまってもそれはそれでうまくいかない。バランスが大事だという話も聞きました。木を見て、森も見るということが今問われているのかなと。教師はスーパーマンではありません。僕もどこまでできるかわかりません。だから、「僕は森を見ているから、申しわけないけどあなた、木をみてもらえますか」というようなボランティアスタッフの存在がこれからますます欠かせなくなっていくんじゃないかと思います。
(取材:田畑則子 撮影:戸澤裕司 協力:中川美穂)

乙武洋匡<おとたけ・ひろただ>
大学在学中、自身の経験をユーモラスに綴った『五体不満足』(講談社)が多くの人々の共感を呼び、500万部を超す大ベストセラーに。
99年3月からの1年間、TBS系『ニュースの森』で、サブキャスターを務め、メディアという未知の世界での経験をまとめた『乙武レポート』(講談社)を出版。
大学卒業後は、スポーツライターとして活躍。2005年より明星大学の通信課程で学び、07年小学校教諭2種免許状取得。04月より東京都杉並区の小学校の教壇に立つ。http://sports.nifty.com/ototake/

●学校、子どもへの思いが満載、乙武さんの最新刊です
だから、僕は学校へ行く!』(講談社)



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