「8割水没した街」の再生が注目を浴びるワケ 米ニューオリンズは東北復興の手本となるか

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 ーーその一つが「リフレッシュ」プロジェクトですが、食品スーパー誘致が、なぜ地域の活性化につながると考えたのですか。

ニューオリンズには美味しいものがたくさんあり、その多くはとてもリッチな風味だけれども、必ずしも健康的とは言えない。一方、カトリーナ以降、私たちが活動する地域内外の住民から「一刻も早く食品スーパー再開を」との要望がたくさんあった。多くの人が、もともと住んでいた地域に戻るかどうか決めるうえで、その場所に食品店があるか、学校があるか、さまざまなサービスが整っているか、といった点は非常に重要だ。

ニューオリンズがもとから抱えている健康面での問題と地域再生の両方にアプローチできるのは、食品スーパーを開くことだと考えた。

利害関係者を束ねるのがNPOの役割

——具体的にどうやって食品スーパーのオープンにこぎつけたのですか。

組織を立ち上げて最初2、3年は基本的なことを一通りやってから、ハリケーン後に食品スーパーが撤退したまま空っぽになっていた大型ビルをどうにかしようということになった。そこに新たなスーパーを開こうという話が、結果的に「コミュニティ健康ハブ」構想に発展した。つまり、一つの場所で食品を購入できるだけでなく、健康的な料理の作り方やガーデニングを学べたり、ヘルスケアを受けたりできるようにしたんだ。

これが非常にうまくいって、一つの成功モデルのようになった。地域やコミュニティによって実際にやることは異なると思うが、政府、民間企業、そして市民をまとめて協議を行ううえで、中心的な役割を非営利団体が果たす例にはなった。

ーー高級スーパーとして知られるホールフーズが低価格帯の店を出すことになった理由は。

ホールフーズはもともと、色々な所得者層が入り交じった多様なコミュニティに向けた店を出したいと考え、出店場所を探していた。偶然が重なって、彼らと私たちの思惑が一致したわけだ。ホールフーズが得意とするのは高品質なオーガニック商品だが、ここではコミュニティに見合った店づくりを目指した。同社はこれまで、こうした実験店を米国に5つ出しているが、その中でもニューオリンズの店はとてもユニークだ。

ーー都市開発を進めるうえで、政府や市民など利害関係者の意見を一致させることが一番難しいことの一つだと思いますが、どうやって利害の異なる関係者を協力させたのですか。

正直そこにマジックはない。まずはオープンになって、共通のビジョンの「つなぎ役」になろうと努めた。それぞれの利害関係者のパートナーになり、皆が同じ協議のテーブルにつくよう働きかけ続けた。プロジェクトのチアリーダーに徹して、「コミュニティの健康ハブになるというビジョンを忘れずに」と言い続けたわけだ。利害関係者を協議のテーブルに何度もつくように促すことが、BCCの最も重要な役割だったと思う。

ーーリフレッシュが始まってから、住民は戻ってきているのですか。

私たちの活動範囲の住民の規模はまだカトリーナ前よりは小さいが、あと数年もすれば以前の水準に戻るのではないか。ニューオリンズ全体を見れば、もともと130万人ほどの中規模都市だが、人口はハリケーン前の水準にまで戻っている。もともとニューオリンズに住んでいた人、という意味ではまだ5万人ほどが戻ってきていないが、それもあと10年くらいで戻ってきてもらえるようにできると思っている。

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