コロムビアミュージックエンタテインメント取締役名誉相談役・廣瀬禎彦(Part4)--美空ひばりさんは今でも年間2億円の売り上げ、利益をもたらしてくれます
あとは、“ヒット性”をどう教育するかということでしょうか。うまくいっているレコード会社は、トップが剛腕で下の意見はよっぽどでなければ通しません。音楽とは極めて業種専門的な分野なので、現場の意見を尊重しつつヒット性を教えるのはとても難しいんです。
--廣瀬さんが考えるヒット性とはなんでしょう。
私は作品そのものの良しあしはあまり言いませんが、誰に売るのか、キャッチコピーはどういうものかということをしつこく聞きます。音楽は、聴いたらみんなが買ってくれるわけじゃありません。何を伝えたいかが重要なんです。ターゲットが決まっていないものは営業が困りますし、評価もできません。
ある新人が中年のサラリーマンにウケたとします。作り手は欲をかいて、いわゆるF1・M1層(20~34歳)といった若い層を狙いがちですが、うまくいきませんよ。アーティストも人間ですので、自分のイメージが固定化されることが怖くて変化を望みますが、ファンは変わらないイメージを求めます。イメージを変えるとことごとく失敗しますよね。ターゲットセグメントを明確にし、そのターゲット層が好きそうなサウンドにすること、当たった所を何度も当てることが売れるコツです。ちなみに現在、レコード会社は高齢化に伴い、ターゲットをティーンではなく30歳以上にシフトしています。
--きちんとしたマーケティングやメッセージ性を確立していると思われるアーティストは誰ですか。
マーケティングディレクションは、プロダクションのトップが握っています。アーティストの善しあしは所属するプロダクションの良しあしで決まりますね。プロダクションがどうやってタガをはめるかなんです。
たとえば氷川きよしは10年間、演歌という割とニッチな市場において、曲を出せば必ず10万枚以上売れています。独立して失敗するケースは、タガが外れてファンから離れてしまうことが原因。逆に、なかなか売れないアーティストが、家族的なプロダクションから大手に移ったら売れ出したなんて話もあります。プロダクションのグリップはとても重要です。