宮崎あおいの二面戦略「一眼デジカメオリンパス・ペン」《それゆけ!カナモリさん》

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■選択と集中は絶対ではない

 双方のKBF(Key Buying Factor=購入要因)が異なるからだ。例えば、カメラで考えれば、男性なら「本格的な性能」「信頼のブランド」「写りの良さ」「ステータス」などであろう。女性なら「使いやすさ」「軽くて小さい」「みんなが使っている」「可愛くてオシャレ」などとなるだろう。その結果、両者向けのプロダクトは別々に設計されることとなる。

 「ペンE-P1」はその両者を一気に狙う二面戦略をとっているのが特徴だ。そしてそれを可能にしているのが、スペックと来歴、そして、宮崎あおいという合わせ技なのである。

 小さいけれど本格派。それは高度成長期のスター「オリンパス・ペン」が確立したポジショニングそのものだ。それをデジタル化したのが「E-P1」となれば、男性ターゲットの納得感は高い。

 一方、最新の技術で誰にでも使いやすくなっており、特徴である軽量・コンパクトさは、女性にも受け入れられる。オシャレなボディーカラーも設定した。

 イメージキャラクターを務めるのは、男女を問わず人気を誇る、写真をよくわかっている女優。そんな彼女は各々のターゲットに対して、「満足は間違いない」というエンドーサー(endorser=保証人)として機能する。

 選択と集中という言葉がある。また、モノをきちんと売りたければ、ターゲットをしっかりと絞り込むのは鉄則だ。「二兎を追う者は一兎をも得ず」という故事来歴は誰もが知っている。しかし、それらは絶対の法則ではない。ターゲットのKBFにマッチした要素が確立できれば、全方位戦略や二面作戦を敢行すべきであるだろう。

 現在、大量に投下されている宮崎あおいのCMが、いかに効果を発揮して、その戦略があたるのか。「オリンパス・ペン E-P1」の売れ行きを見守ってみたい。

 筆者は他社の一眼デジタルカメラを最近購入してしまったばかり。でも、幼いころの甘~い記憶とあおいちゃんの微笑に誘われ、いけないとは分かりつつ、ついフラフラと有楽町のビッグカメラに足が……。今のうちに妻に謝っておこうではないか。

 衝動買いしたら、ごめんなさい!
《プロフィール》
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
◆この記事は、「GLOBIS.JP」に2009年8月7日に掲載された記事を、東洋経済オンラインの読者向けに再構成したものです。
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