"行間"を読ませる「トランプ話法」の功罪 「省略三段論法」というレトリック
トランプ氏が何を言っているのか、その解釈は聴く者に委ねられている。修辞学を専門とする複数の教授によれば、これはつまり、支持者は実質的に彼の発言を自分自身の信念に合わせて解釈できるということだという。また、意識的か否かはともかく、これによってトランプ氏は、ライバルが彼を攻撃するための言質を取られることを避けられる。
厳密には、エンテュメーマとは、三段論法のうち少なくとも一つの前提を表明しないままにしておく推論方式である。このコンセプト自体は目新しいものではない。古代ギリシャの哲学者アリストテレスが解説しているし、過去の米国政治においても用いられてきた。
実際に、エンテュメーマはさまざまな形で現れる。ドラマチックな効果をもたらす間や、不完全な文、トランプ氏が用いる穴埋め式の「何か(something)」などがあると、米政治家などによる演説を研究している専門家は指摘する。いずれのケースでも、空白を埋めるのは聴く側だ。
トランプ氏は、フォックス・ニュースの番組司会者メギン・ケリー氏や、一時はライバルだったカーリー・フィオリーナ氏を攻撃するときも、この手法を使っていた。ニューヨーク市におけるモスク建設に反対するときも使った。移民問題から貿易紛争に至るまで、さまざまなテーマについて語るときに、この手法を日常的に駆使しているのだ。
対立者は攻撃、支持者は擁護
ケリー氏を攻撃した例では、トランプ氏はテレビ放映された討論の際に両者のあいだで交わされた激しいやり取りについて語りつつ、彼女は「彼女の目から血が出ていた、他のどこかからも血が出ていた」と述べた。
この発言は多くの人々の憤激を招いた。トランプ氏は、ケリー氏が生理中でホルモンの影響を受けて合理性を欠いていたと言おうとした、というのが彼らの結論である。トランプ氏はそうした趣旨を否定し、支持者は、トランプ氏はそのような言葉を口にしていないと弁護した。
聴く側に解釈を委ねるトランプ氏の習癖は今に始まったことではない。大統領選出馬よりだいぶ前に行われたインタビューの記録を見ても明らかである。意識的にやっているのかどうかは分からない。
広報担当者のホープ・ヒックス氏によれば、これは競争的な精神の表われなのだという。「トランプ氏の演説は一局のチェスのようだと人は言います。偉大な才能が織りなす複雑な織物のようだと」と彼女は言う。