トヨタはなぜ、キレたのか?《それゆけ!カナモリさん》
例えば配布資料に掲載されている漫画では、ストロングHVはエンジン役もモーター役も競技用自転車のレーサージャージを着た若くて筋骨隆々のたくましい男性。一方のマイルドHVは、チノパンにシャツ姿で眼鏡をかけた頼りないおじさんがエンジン役、そしてモーター役は「自分ひとりではまだ走れない」と言う「マイルドモーターちゃん」なる幼い男の子が務め、2人でペダルをごくという図式だったという。
露骨に、自社のシステムが優れており、他方がダメダメであるかを、コッテリたっぷり伝えたのだ。
比較広告は日本では馴染みがあまりないが、海外においては珍しいことではない。有名な例では、ペプシコがコカ・コーラとの比較を一般消費者に体験させ、それをCMにした「ペプシチャレンジ」。最近では、アップルコンピュータの「マックです。パソコンです。」のCMもその例だ。
しかし、上記の例はいずれも市場ポジションが下位のチャレンジャーが、上位のリーダーに挑んでいる。リーダーが下位のチャレンジャーを比較して、さらに徹底的に叩くということは、極めて異例だといっていいだろう。
記事には、「あまりにもメッセージ性が強く、わかりやすい戦略。明らかにホンダはトヨタの“虎の尾”を踏んだということ」という業界関係者のコメントが紹介されている。あまりにも露骨なトヨタのホンダ叩きの真意はどこにあるのだろうか。
低廉な価格設定、場合によっては初期段階では赤字も覚悟して、早期に市場のシェアを獲得する価格戦略を「ペネトレーション(市場浸透)戦略」という。
その戦略の要諦は、競合があきらめるぐらいの低価格をもって参入障壁を築くこと。その意味では、ホンダ・インサイトの価格はトヨタの誤算でもあっただろう。致し方なく、トヨタはより一層のペネトレーション・プライシングをプリウスに設定した。
ペネトレーションで利益を出す方法は、とにかく数を売ることだ。規模の経済によって、固定比率を圧縮し、経験効果によって生産性を向上させ、変動比率も圧縮する。固定費・変動費という原価を圧縮することによって、利益を絞り出していくのだ。
利益をひねり出していくことはトヨタのお家芸である。しかし、インサイトの出足は好調すぎた。みるみる数万台という予約を取り付けられてはトヨタのシェア最大化によって利益を創出するという目論見が潰えることになる。ここが一つの「虎の尾」なのだ。
もう一つ理由がある。ポジショニングの問題だ。