過剰反応に陥った新型インフルエンザ対策の大混乱
「普通に元気な人まで、うつらないものをうつると考えてしまっている」(感染研の岡部センター長)と、専門家らも過剰反応ともいえる様相に懸念を示す。一定量の備えは必要だが、マスクへの過信は落とし穴となりかねない。国の新型インフルエンザ対策本部も、屋外では「相当な人込みでないかぎりマスクを着用する意味はない」としている。
本来的なマスクの役割は感染者からのウイルス飛沫・飛散を防ぐことにある。予防策として使用するにしても、ウイルスが付着したマスク表面を触った手で目などに触れ、感染してしまうリスクは完全に排除できないからだ。
拡大を前提に対策
国内感染が広がったことで、政府は空港での厳重な検査を緩和した。専門家も「企業は感染拡大を前提とした態勢を整えるべき」(北里大学医学部・衛生学公衆衛生学の和田耕治助教)と指摘する。
今回の事態は一過性のものではない。ウイルスが繁殖しやすい秋冬の再流行が懸念されており、それを想定した態勢が必要になる。季節性の既存インフルと違って、新型インフルの場合、人に免疫がないことからその感染力が強い。予想以上に社内感染が広がれば、企業も業務継続に支障を来しかねない。このため「感染した人が安心して休めるように、組織でバックアップできる態勢の構築が必要になる」(和田氏)。
すでに医療の現場では課題が浮き彫りになった。関西圏ではインフルエンザの感染者を診察・治療する「発熱外来」に人が押し寄せ、病床がパンク状態に陥った。ウイルスが弱毒性であるため、自宅療養や一般病院への受診切り替えを検討できたことが救いだった。
今年の秋冬は「季節性と新型が同時流行するおそれもある」(感染研の田代眞人インフルエンザウイルス研究センター長)。冷静さを欠き目先の対応に追われることが、最大のリスクかもしれない。
(前田佳子、井下健悟 =週刊東洋経済)
Image:CDC
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