日本学生支援機構の担当者に取材すると、「公的資金が入っている以上、きちんと返還をしている人との公平性という観点も重要」という答えが返ってきた。確かに、以前は返還が可能なのに返そうとしない人が一定数存在し、モラルハザードが大きな問題になっていたことは事実だ。
また、機構は「返還が厳しい事情がある方は、猶予制度を活用して欲しい」と繰り返す。逆に言えば、猶予の対象でなく、督促に対して連絡がなければ、訴訟による回収を前提とした行動を取るという姿勢が鮮明だ。しかし、岩重弁護士は「猶予制度の案内は、全く分かりにくく、不親切だ。案内についても外部の業者に委託されており、機構から丁寧な説明がなされているとは言えない」と批判する。
実際、日本学生支援機構での調査でも、延滞者の53.6%が、猶予制度の仕組みについて「知らなかった」と回答しているのだ(平成25年度奨学金の延滞者に関する属性調査結果)。日本学生支援機構の遠藤勝裕理事長も、「正直に言って、この組織は役人体質が根強かった。とにかく書いてあればいいという感じだったことは否定できない。今後は発信の方法も改善していく」と、問題があったことを認めている。
セーフティネットは機能しているのか
返済猶予制度のようなセーフティネットが確実に機能していなければ、貸与を受けて教育を受けたものの、何らかの事情によって貧困に陥った人達に、追い打ちをかける構図が発生する。
こぼれ落ちてしまった人たちをフォローすることなく形式的な「公平性」を貫けば、奨学金制度が貧困の固定化を招く要因になることは事実だろう。回収によって得た延滞金は、学生支援機構の運営に当てられることもある。結果として、貧困層になってしまった要返還者を相手にした「ビジネス」的な要素が出てくる点も、確かに否定できない。
ただ、そもそも、独立行政法人は、行政の企画立案部門と執行部門を分離し、執行部門に法人格を与えることによって、業務の効率性と質の向上を図るという目的で作られたものだ。日本学生支援機構が、独立行政法人として金融事業の考え方に基づいて効率性を重視して行動していることは、むしろ趣旨に沿ったものとも言える。一方で、民間企業のように利潤の拡大を追求しているわけではなく、「貧困ビジネス」とまで言い切れるかは疑問だ。
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