――しかし、奨学金問題に取り組んでいる弁護士の方に取材していると、「大卒でないということ自体が、生きていくうえで壁になるという現実がある」といった指摘もありましたが。
それはおかしい。その弁護士は、どういうつもりで言ったのか知らないけれど、そういった言説には非常に反発する気持ちを覚えますね。今の大学進学率って何%ですか。
――日本では約50%です。
そうですよね。じゃあ大学に行かない人間は何しているのですか。みんな汗水垂らして働いて、税金を払っているんですよ。四大に行っている人の2.6人に1人は、その税金を原資とした奨学金の貸与を受けて勉強している。同世代の若者の半分は、働いて税金を納めているという事実を忘れてはいけません。
編集部注記)四大のほかに短大や高専などの進学者や無職の浪人生もおり、「同世代の若者の半分」が働いているわけではありません。
だからその弁護士がね、「四大の壁がある」なんていうのは、そんなの甘い! じゃあ大学に行かないで働いている人たちは人間じゃないのか、ということですよ。
――そこまでの意味で言っているわけではないと思いますが……。
「壁がある」というのはそういうことじゃないですか。彼らは「奨学金制度がひどい」ということを言うために、そういったことをわざわざ持ち出している。本当に怒りを覚えますね、そういうことを言う人には……。
意欲があるけれども経済力がない人を救う。そのために奨学金制度というものはあるのです。その原資になっているものは何かと言えば、働いている人が汗水垂らして納めた税金です。そこを忘れずに議論しなければいけない。
大学を出ても、企業はすべてを「大卒」と考えない
――現代には「四大の壁」は存在しない、と?
そんなものはないですよ。奨学金で困っている人を救う弁護士ですら、そういうことを言うわけですね。その人は、社会のことを知らないんです。はっきり言って、企業は大学と名のつくところを出たからといって、すべてを「大卒」だなんて思っていません。働く意欲があって、手に職さえあれば、活躍できる場所は必ずあるんですよ。
――日本において、そもそも大学は数が多すぎるのではないかといった声もある。
日本の高度成長から安定成長を支えてきた多くの人は大卒ではないわけですが、「せめて自分の子供は大学にやりたい」という思いが、大学教育へのニーズを増大させていきました。文科省も、この社会のニーズに応えるために認可を増やしてきたということでしょう。
――学生を集めることに苦労しているような大学は、奨学金の存在が経営の大前提になっているという現実があるのでは。
そう。奨学金制度のステークホルダーは誰か。教育を受ける学生はもちろんだけど、それ以上に大学なんですよ。
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