イラン制裁解除で微妙になるサウジの立場 地域における唯一の大国ではなくなった
これらの事件は深い傷を残し、中東地域でも世界全体でも、無法国家イランに対する敵意を募らせた。だが、先週の米海軍との一件を2007年に起きた事件と比べると隔世の感がある。当時、同じような状況で拘束されたイギリス海軍の乗員はスパイ行為を疑われ、2週間にわたり拘束されたのだ。
米海軍の乗員の拘束をめぐる緊張は新たに生じた友好的な関係のなかであっさりと抑え込まれ、「米国とイラン両政府のあいだでの新たな関係の誕生を象徴している」と、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの中東問題専門家ファワーズ・ゲルゲス氏は語る。
「邪魔者」ではなくなったイラン
米国政府は依然として、イラン政府を牛耳るイスラム教の学者や指導者たちと相思相愛の関係にあるとはとうてい言い難く、公式にはイランの仇敵であるサウジを支持している。だがイランは政治的にも経済的にも魅力的だ。ゲルゲス氏は「地域的な超大国になる可能性があり、トルコに似た大きなポテンシャルを秘めた新興市場」と同国を評する。
「この地域におけるイランの極めて重要な役割、『イランはこの地域に浸透している』という新たな理解に基づいた、新たな関係がある」と同氏は指摘。したがって、米政府にとってイランはもはや邪魔者ではなく、中東地域の安定化に向けてポジティブな役割を果たし、「戦火を止めることに貢献する」可能性のある国になっていくだろう。
だが、サウジは依然としてイランと対抗することに執着している。厳格なワッハーブ主義スンニ派ムスリムであるサウジの宗教指導者は、シーア派を異端と見なしており、その点では、シーア派を根絶すべき偶像崇拝者だと考えている過激派「イスラム国」とさほど大きな違いはない。
イランがイラクからシリア、そしてイラン政府が提携する武装組織ヒズボラが最大の政治勢力となっているレバノンへと「シーア派枢軸」を構築するのに成功したことで、サウジは大いに慌てている。
サウジ政府は、シーア派が多数を占める隣国バーレーンにおける混乱も、またサウジが昨年空爆を開始したイエメンにおけるシーア派武装組織フーシによる反乱も、イランの支援によるものだと主張している。また、サウジ産原油のほぼすべてを埋蔵する東部州(同国内で少数派として軽んじられているシーア派の大半が暮らしている)においても、イラン政府が混乱を煽っていると考えている。
今月、サウジが反体制派のシーア派宗教指導者ニムル師を処刑したことで、イランとの関係はいっそう悪化した。