オバマはソフトパワーで難局を打開できるか--ジョセフ・S・ナイ ハーバード大学教授

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 連続テロ事件でブッシュは大胆で新しい外交ビジョンを表明する機会を得た。しかし、彼は米国が世界で永続的な指導力を発揮するビジョンを作り出すのに失敗した。人々を引き付けるビジョンは、実行可能性と精神的なインスピレーションとを組み合わせたものである。ブッシュは、それを作り出せなかった。

米国の指導力を回復するためには、オバマはエモーショナルなインテリジェンスとコンテクスチャルなインテリジェンスの双方を利用しなければならない。コンテクスチャル・インテリジェンスは、異なった状況で賢明な戦略を作り出すために戦術と目的を組み合わせる、直観的な分析スキルである。10年前、米国の覇権的な支配の時代について当たり前のように議論されていた。ネオコンは、米国のパワーは圧倒的で望むことは何でもでき、他国はそれに従う以外に選択肢はないと主張していた。

一国主義は、世界の政治の本質に対する誤解に基づいていた。すなわち自らが欲する結果を達成するために他国に影響を与えることができると誤解していたのである。

米国は唯一の超大国かもしれないが、決して帝国ではない。米国は他の国に影響を及ぼすことはできるが、支配することはできない。ある国が大国になれるかどうかは、その国が置かれている状況によって決まるのである。

現在の世界の状況を理解するために、私は3次元のチェス盤の例えを挙げて説明してきた。いちばん上のチェス盤には軍事力があり、ここでは米国は超大国である。次の盤には経済関係があり、世界はすでに多極化している。米国はEUや中国、日本などの協力なくして貿易であれ、反独占政策であれ、自らが欲する結果を達成することはできない。いちばん下の盤には政府の管理を超えた国際的な問題が存在している。この次元には疫病、気候変動、テロなどの問題が存在し、どの国も一国では対応できないものである。

オバマは世界経済危機、イラクとアフガニスタンでの戦争、中東と南アジアの危機、テロとの戦いを引き継いだ。こうした負の遺産を処理しながら、同時に新しい海図を描かなければならない。困難な決断をする一方で、米国が恐怖ではなく希望を輸出できるビジョンを打ち出さなければならない。それこそが彼の指導力が試される試練なのである。

Joseph S.Nye,Jr.
1937年生まれ。64年、ハーバード大学大学院博士課程修了。政治学博士。カーター政権国務次官代理、クリントン政権国防次官補を歴任。ハーバード大学ケネディ行政大学院学長などを経て、現在同大学特別功労教授。『ソフト・パワー』など著書多数。

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