電気自動車(EV)は破壊的イノベーションになる!? プリウス、インサイトはもう古い
ビッグスリーが政府のつなぎ融資でどうにか年を越した1月の米デトロイト自動車ショー。ゼネラル・モーターズ(GM)の記者発表は意外にもにぎやかだった。リチャード・ワゴナー会長と新型ハイブリッド車(HEV)を、GM従業員の色とりどりのプラカードが取り囲む。「チャージド・アップ(いいぞ)」「ウィア・エレクトリック(私たちは電気だ)」。威勢のいいフレーズが並ぶ中、1枚、意味深なプラカードがあった。「GAME CHANGER(ゲームの変革者)」--。
普通のハイブリッド車はそのうち蚊帳の外
海を越えたここ日本では、ホンダの新型HEV「インサイト」の好調ぶりが連日伝えられる。「2月の新車販売で10位にランクイン」「5月に出るトヨタ自動車の新型『プリウス』はどう迎え撃つのか? 」--。しかし誤解を恐れずにいえば、この2車対決はコップの中の嵐にすぎない。
インサイトやプリウスは、エンジンとモーターどちらも車軸に直結する構造から並列(パラレル)型HEVと呼ばれる。駆動は主にエンジンが担い、エンジン効率の悪い発進時や加速時はモーターも補助する。「モーターアシスト付きガソリン車」というほうが正しいかもしれない。
GMのプラカードの輪の中心にいたHEV「ボルト」はモーターだけが車軸につながった直列(シリーズ)型だ。エンジンは2次電池に充電する発電機に徹する。EV(電気自動車)に近い仕組みで、航続距離延長型EVと呼ばれることもある。
ボルトはしかも家庭用コンセントなど外部電源から電池を充電できるプラグイン式のハイブリッド車(PHEV)だ。64キロメートル以内の短い道のりならモーターと電池だけで走り、長距離はエンジンで発電しながら走る。最長航続距離は約1000キロメートル。東京-大阪間を往復でき、ガソリン車と遜色ない。
(注:プリウスはエンジンが駆動と充電どちらも行うことからシリーズ・パラレル方式とも呼ばれる)
「PHEVは外部から電気を入れる点でHEVと決定的に異なる。これまで車を動かすエネルギー源とは思われてこなかった風力、太陽光、原子力などが使われるようになり、新たなエネルギー取引が始まる。これが重要だ」(金田武司・ユニバーサルエネルギー研究所社長)。インターネット通信のように双方向に電気を融通し合うエネルギーネットワーク「スマートグリッド」の中に、電源プラグを持たないHEVは入れない。PHEVは入れる。“タイヤの付いた蓄電池”として各家庭や企業にうってつけの分散型蓄電装置になりうる。「米国では車の95・2%が駐車中という調査がある。つまり1日のうち23時間は止まっている。日本も同様だろう。停車中にプラグインしておけば一つの電力基地になる」と指摘するのは堀雅夫・同研究所技術顧問だ。「PHEVの出力が1台15キロワット程度として日本の保有台数5444万台を掛けると817ギガワット、100万キロ級発電所の817基分、国内で使用する電力の7倍に相当するパワーになる」。
ビークル・ツー・グリッド(V2G)なるこの考え方は急速に広まっており、米国ではボルトのようなシリーズ型PHEVを「E‐FLEX車」(EはElectricity)と呼び、普通のHEVと峻別し始めた。