電気自動車(EV)は破壊的イノベーションになる!? プリウス、インサイトはもう古い
そしてゲームはもつれる
自動車もすでに十分ハイスペックだ。車体は横になれるほど大きく、速度は怖いほど出る。インパネに並んだボタンは多すぎて、すべては使いこなせない。中核部品を見れば、ガソリン車とEVに技術的継続性はない。EVは破壊的存在になる条件を備えている。
バッテリーの性能がボトルネックとなり、EVは商業的に成功しないという仮説は優良企業が陥りがちな失敗だとも同書は言う。「10代の子どもが近所を走る車としてならどうか? 東南アジアの雑然とした都市で走るタクシーや小荷物配達車としては? ……。優良企業は持続的イノベーションにこだわるあまり、最後は市場のリーダーシップを失ってしまう」。教授はこう結論づける。
つまり、エンジン車とHEVで世界を席巻している日系メーカーこそイノベーションのジレンマに陥るおそれがあるということだ。逆にいえば、経営危機に瀕するGMは思い切って資産をスリム化し、破壊的イノベーションに身を投じることができる。ボルトがシンプルなシリーズ型であること。主流である永久磁石型モーターでなく、前世代の誘導モーターを使ったとみられること--、すべてが単純で安価なEVでこれまでの競争ルールを破壊しようとするたくらみにさえ思えてくるではないか。デトロイトでのゲーム・チェンジ宣言は負け惜しみでもカラ元気でもなかったのだ。
EVに懸ける日産も、クリステンセン教授の“法則”に倣うかのような動きを見せる。去る2月上旬、ゴーン社長による大幅な業績下方修正で揺れに揺れた08年10~12月決算説明会。配られた資料にひっそりと「電気自動車事業部新設」の一文があった。破壊的技術の商品化を小さな自立的組織に任せるのは、大企業がイノベーションのジレンマに陥らない唯一の方法である。
「太陽、風そして大地を利用して自動車を動かし、工場を動かす」。就任演説でそううたったオバマ米大統領は、ビッグスリーを潰したくない。ボルトのようなシリーズ型PHEV、そしてEVへ手厚い税制優遇を付けるだけで、日本メーカーのHEVを吹き飛ばすことなど朝飯前だ。
その先にはもっと混沌とした未来が待ちうける。構造的にシンプルなEVやEV派生のシリーズ型PHEVが台頭すれば、自動車業界の参入障壁は低くなり、海外ベンチャーや電機メーカーがどんと押し寄せるのは必至だ。新エネルギー時代の車の勝者は、もう誰にもわからない。
(週刊東洋経済)
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