恐慌から脱出するために必要な4つの政策とは--ブラッド・デロング カリフォルニア大学バークレー校教授
オバマ政権は財政政策と貸し出し政策を発動
ただ金融政策には問題がある。世界を襲っている現在の経済危機に対応するために、世界中の中央銀行は大量の国債を購入して、大量の現金を市場に供給しているため、近い将来国債の価格は間違いなくフラットになる。言い換えれば国債の名目金利はゼロになるということだ。つまり、金融政策は将来の国債の価値をさらに高めることにはならないのである。
これは非常に困った状況である。もし金融政策だけで恐慌を防ぐことができるなら、私たちは間違いなく金融政策を発動するだろう。金融政策は私たちが最もよく理解し、破壊的な副作用のリスクがいちばん小さいマクロ経済の安定化の政策手段だからである。
三つ目の政策手段は、貸し出し政策である。企業に現金を供給して安全な収益を得ることができるプロジェクトだけでなく、リスクが高く、不透明なプロジェクトにも投資させることで、すぐに支出を増やすことができる。しかし、現在、プロジェクトのための投資資金を調達できる企業はほとんど存在しない。
リスクの高いプロジェクトの現在の割引率は非常に高い。なぜなら民間の金融市場のリスク許容度が崩壊しているからである。リスク資産に投資したり、追加的な不確実性を進んで引き受けたりする人がいないからだ。人々は、自分はリスクについて、本当のことを何も知らないのではないかと恐れているのである。逆接的に言えば、今、リスク資産に投資するのは愚かな行為だと考えているのである。このため、世界の中央銀行総裁と財務大臣は貸し出しを促進するために多くの工夫に富んだ革新的な政策を考え出してきたが、今までのところ大きな成功を収めてはいない。
そこで四番目の政策手段である財政政策が登場する。政府が資金を借りて支出すれば、失業者は職を得て、設備稼働率も平常な水準にまで回復するだろう。ただ財政政策には欠陥もある。追加的な国債のすべてを借り入れで賄えば、その結果、巨額の財政赤字が発生することになる。また、国債の発行額が急激に増加すると、投資家の実物投資を抑制する懸念もある。実物資産は、将来、国債を償還する際の原資として課税ベースになりかねないからである。
しかし、四つの政策手段のうち二つしか使えず、そのいずれもが単独では雇用創出効果が完全でないのなら、貸し出し政策と財政政策を同時に試みるのが合理的であろう。それはオバマ政権が現在行っている政策である。
Brad Delong
1960年生まれ。ハーバード大学で経済学博士号を取得。93~95年に財務副次官補として93年度予算、GATTウルグアイ・ラウンド、医療制度改革に携わった。97年から現職。政治・経済のブログ「Grasping Reality with Both Hands」でも有名。
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