ソーシャルメディアと旧勢力の新たな冷戦

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 しかしもっと深い相違は、そもそも情報を所有するのは誰か、という根本的な問題にかかわる。2010年1月、米国のヒラリー・クリントン国務長官が、米国は「人類全体が情報やアイデアに平等にアクセスできる単一のインターネットを擁護する」と宣言した。

多くの政府が、自国民のインターネットへのアクセスを妨げるために、「電子の障壁」を設けようとするのは、「世界全体に新たな情報のカーテンを下ろす」ことを意味する、とクリントン長官は指摘した。

政府の情報統制にどう対抗すべきか

この戦いは、ITUを含むさまざまな場で繰り広げられている。

ロシアのプーチン大統領は、インターネットの国際的な管理を確立するためにITUを活用したい、という意図を公言してきた。そうすることで、インターネットの管理をドメイン管理団体ICANNといった民間団体の手に委ねている現在の取り決めを変更しようとしているのだ。

米国が、インターネットの管理に関する取り決めを根本的に変更してしまうような条約に署名することは、まずないだろう。ただし問題なのは、多くの政府が、自国民がアクセスできる情報を管理する力を強めようとしている点だ。

現に、政府が情報の遮断を重視する動きは頻繁に見られる。たとえば、シリア政府が抗議者たちに向かって発砲を始めた後、最初に取った行動の一つは、外国人ジャーナリストの追放だった。

 つい数週間前には、タジキスタン政府がユーチューブを遮断し、政府軍が反体制派と戦闘を展開している辺境地域において通信ネットワークをシャットダウンした。また、中国政府は北京オリンピック開会前に抗議行動を厳しく抑圧した際、チベットから外国人ジャーナリストを完全に閉め出した。

ただし、政府がこれらの伝統的な手段を用いても、情報を完全に管理するのは不可能だ。シリア情勢を注意深く観察する人々にとって、主なリポーターや反体制派の代表者たちをツイッターで追跡できることは、とてもすばらしい手段となる。

ところが、シリアの反体制派活動家たちに情報やリンクを発信し続けているシリア人の戦略通信コンサルタント、ウサマ・モナジェッド氏が、2週間前、突然、政府寄りのプロパガンダを発信し始めた。また、サウジ政府・企業が出資する衛星ニュース専門局アルアラビーヤが、正体不明のグループ「電子シリア軍」によって、ツイッターでの発信をハッキングされた、と報じた。

情報戦争が激しさを増す中、情報公開推進派は新たな対抗手段を必要としている。

政府が以前は許容していたジャーナリストを閉め出したり、ニュースやソーシャルメディアに関するウェブサイトを禁じたりすることは、危機の兆候だと見なすべきである。隠すことが何もない政府なら、メディアや国民に自由な報道を許しても、失うものは何もないはずだ。

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