ロスト近代 資本主義の新たな駆動因 橋本 努著 ~現代の歴史的位相を大局的につかむ
評者 若森みどり 首都大学東京社会科学研究科准教授
現代社会に蔓延する息苦しさや将来への不透明感は、日本ではここ十数年の間にすっかり日常生活の一部になっている。今や昇進や昇給を期待できないばかりか、年々減り続ける所得に我慢して当分は働き続けなければならない。特に買いたいものはないし、高価なブランドの小物や車もそれほど欲しくはないのが本音だ。さらに考えてみれば、人生の目標となる役割も、望ましい社会の形も、政治の姿も思い描くことが難しい。
こうなったのは、いつからだろうか。なぜなのだろうか。この斜陽に包まれた社会は、どのような歴史的な位相として大局的にとらえられるのか。本書はこうした疑問に正面から答えてくれる。
著者によれば、私たちは現在、「勤勉」に働くことがそれほど報われず、また、「欲望」消費の快楽にそれほど期待を寄せることもできなくなった、「ロスト近代」の時代モードの中で生きている。この十数年間、経済はほとんど成長せずに、低迷を続けている。人口は減少傾向にあり、少子高齢化がますます深刻になっている。バブル経済を駆動していた贅沢な記号消費に彩られたポスト近代社会は終焉したのだ。
そして、2011年3月11日に発生した東日本大震災とその後の原発事故が、日本社会のあり方を根底から揺さぶるほどの衝撃を与える。原発行政を主導した官僚制マシーンとしての近代国家の威信が大きく揺らぎ、放射性物質による生命の緩やかな致死の恐怖におびえている私たちが喪失(ロスト)したのは、「未来」である。
トピックボードAD
有料会員限定記事
ライフの人気記事