2つの製品が企画された。1つはハート型(左の写真上)のテープディスペンサー。もう1つはボックス型(同写真中、下)のテープディスペンサーだ。ハート型は普遍的なデザインであるが、より若い女性に持ち歩いてもらう意図を込めて作った。「楽しさ」を強調したのである。ボックス型は「感性に訴える」デザインである。ビジネスデスクに馴染むスクエアな静かなデザインであるが、ひとたび開けばその開き方、手応え、開閉音などがクセになる。そのデザインが認められ、2012年3月にドイツの「レッドドット・デザイン賞」を受賞した。
■デザインの力をマーケティングの基本セオリーで売りにつなげる
前々回「製品特性分析でノンワイヤーブラとカラオケについて考えてみた」で紹介したフィリップ・コトラー氏のフレームワーク「製品特性3層モデル」で考えてみよう。
製品を購入して実現したい「中核価値」はテープディスペンサーの場合、「テープが切れる」ことである。逆に言えば、今回スリーエムがフォーカスした「デザイン」は、中核価値とは直接関係のない「あればウレシイ」=「付随機能」だ。
一般に、製品のPLC(Product Life Cycle)が進めば進むほど、求められる価値は「付随機能」へと移行していく。その意味で一連のデザインされたテープカッターは製品戦略の王道を歩んだと言える。
特筆すべきは、今回のテープディスペンサーは付随機能としてのデザインが優れているだけではない点にあろう。従来のカタツムリ型と比べて、テープを包み込む形状であることから、テープ自体にホコリが付いたり汚れたりしない。また、キレイにテープが切れて、テープ本体に巻き付くような状態にならないという切れ味を実現している。つまり、「中核価値」を実現するための欠かせない要素である「実体価値」=「切れ味」「テープの保護」も向上させているのだ。
もちろん商品というのは、優れたもの(Product)を作っただけで売れるというものではない。マーケティングの定番フレームワークである「4P」で考えれば、他の3つのP、価格(Price)・販売チャネル(Place)・販売促進(Promotion)との整合も求められる。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら