「なぜ年金は難しいのか?」その理由のベスト3とは/「年金トンデモ論」は人類の脳と大きく関係している

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第1位:悪い変化ばかりが拡大されて見える“ネガティブバイアス”を全員が搭載している

よい方向の変化を、人間はついつい見逃してしまうミスを犯す。逆に、悪い方向の変化だけは画面いっぱいに拡大される——これがネガティブバイアスです。

年金の周りでは、年金の給付水準にプラスの影響を与える共働き世帯が増え、厚生年金の加入者が増えるというライフスタイルの変化や、若返りなどの変化が起こっています。しかし、人は、悪い方向に向かっている要因ばかりに目を向ける。

人はよい方向の変化には気づきにくい

近視眼バイアスとも関係するのですが、人は時間軸の先を考えることが苦手なのに、そのうえ、よい方向に変化していることなど、まったく見えなくなってしまう。悪い体験に基づくトラウマという言葉はあるのに、よい体験に基づく相当する概念はないんですよね。

スティーブン・ピンカーという認知科学者の『21世紀の啓蒙』にある次の一言は、今日話したことを端的に表していると思います。

それは、「進化がわたしたちにはめた足枷」というもので、彼が言うには、「わたしたちの認知能力、感情機能、道徳性は、あくまでも原始の環境で個々人が生存、繁殖するのに適したものであって、現代の環境で世界全体が繁栄しようとするのに適したものではない。……わたしたちが頼りにしている認知能力は、従来の伝統的社会ではうまく機能したかもしれないが、今ではもうバグだらけと思ったほうがいい」。

近視眼バイアス、発生論の誤謬、ネガティブバイアス。この3つの本能に抗いながら理性に基づいて制度を設計し、運営しているのが、実は年金行政に携わっている人たちです。

ある意味、人類の“脳のOS”との戦いの最前線に立っているわけです。そしてまた、研究をする、学問をするということは、認知バイアスを克服する訓練をすることとニアリーイコールなのです。

権丈 善一 慶應義塾大学商学部教授

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けんじょう よしかず / Yoshikazu Kenjoh

1962年生まれ。2002年から現職。社会保障審議会、社会保障国民会議、社会保障制度改革国民会議委員、社会保障の教育推進に関する検討会座長などを歴任。著書に『再分配政策の政治経済学』シリーズ(1~7)、『ちょっと気になる社会保障 増補版』、『ちょっと気になる医療と介護 増補版』など。

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