出国税「3000円」に引き上げは日本人に不公平? パスポート手数料の引き下げでも拭えぬ"実質増税"の懸念

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10年有効パスポートの手数料1万6000円のうち、都道府県の経費2000円を引いた1万4000円の内訳は、4000円が冊子作成やシステム開発費などの直接行政経費。残りの1万円は在外公館での邦人保護活動などの間接行政経費だ。

この1万円は1年当たり1000円として計算されたものである。5年有効パスポートが5000円安い1万1000円であるのは、この間接経費が5年分の5000円安いためだ。

これを7000円引き下げて約9000円にする案(10年有効パスポート)が出ているということだ。しかし、そうなるとこの内訳のつじつまがあわなくなる。前述の日経新聞記事によれば、出国税の増収部分でパスポート手数料収入減を補填する計画のようだ。結局、10年で3、4回以上海外に出かける日本国民にとっては増税ということとなる。

日本人のパスポート保有率はかなり低い

外務省が今年2月20日の「旅券の日」に公表した旅券統計によると2024年における旅券の発行数は約382万冊で、同年末時点における有効な旅券の総数は、約2164万冊だった。

国民の保有率は約17.5%で、G7諸国の中でも最低だという。例えば、韓国は40%、台湾60%、アメリカ50%と、大きな開きがあり、日本では約6人に1人しかパスポートを所持していない。この保有率は2013年の24%から低下傾向にある。

その理由として、円安による渡航費用の高騰や若者の意識変化などが背景にあるとされるが、筆者も長年、大学の教員をしていて大学生の海外旅行への関心が薄いことが気になってきた。

早稲田大学ビジネススクールの池上重輔教授は、円安で海外渡航が高コスト化している中で、3000円以上への値上げは特に若年層や教育目的の渡航者にとって心理的ハードルともなりうると指摘している。さらに長期的に見れば、日本人の国際経験が減少し、企業の国際展開力や人材の国際感覚を損なう可能性すらあるとの見解だ。

また、「観光双方向性(tourism bilateral relationship)」という概念があり、海外旅行(アウトバウンド)が増えると、国際航空路線の拡大、旅行会社の供給拡大、認知度向上などを通じて、中長期的には自国への訪問(インバウンド)も増えるという見解を紹介している(〈論点〉出国税の引き上げはオーバーツーリズム対策の切り札になるか?世界の観光大国と比べて日本に不足していること/2025年12月16日「Wedge ONLINE」より)。

安易な増税は長期的、間接的にこうした悪影響を及ぼす可能性もある。

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