安倍政権の「政治判断」が就活を迷走させた 青写真を描いたのは誰か?

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「周囲の動きが見えなくて、例年競合にならない業界とバッティングしたり、例年より多くの内定者を引き抜かれたりしてしまった」(大手メーカー人事)「大手の内定がなかなか出ないので、内定者のフォロー期間が異様に長かった。8月以降、大手に引き抜かれても、追加募集の期間がなかった」(ITベンチャー人事)など、企業も困惑している。

ひとつの基準では各社を縛れない

前文科相の下村氏が指摘したように、6月まで米国の大学に留学していた慶応大学法学部4年の女子学生(22)からは、

「留学から帰っても就活が間に合うんだと思ってうれしかった」

と好評だが、多くの当事者にはマイナスのほうが大きかった。

今年の就活・採用がほぼ終息した直後の10月15日、日商はオワハラの横行などを問題視して就職活動の「繰り上げ」を提言した。経団連も、9月下旬から会員企業に就活についてのアンケートを実施。榊原定征会長が10月に記者会見して、

「実際やってみて予見できなかった問題も出てきた」「学生への負担が大きかったと思う。(中略)学生、大学、企業のいずれにとっても今回の新スケジュールは問題が多かった」

と総括。17年入社の就活では選考開始を8月から6月前後に早める方向で検討を始めている。一方の同友会は「通年採用」が望ましいという立場で、具体的な議論を進めているという。「政治判断」による後ろ倒しから1年で噴き出した見直し論。就活の時期を巡っては、半世紀にわたる紆余曲折が続いてきたが、大企業と中小企業、上場企業と未上場企業だけではなく、ベンチャー企業や外資系企業なども一定の存在感を持つようになった昨今、一つの基準で各社の採用スケジュールを縛ることはもう不可能に近い。前出の下村氏も言う。

「もう、経団連だけが就職活動時期決定のリーダーシップをとるのは難しい時代でしょう。少なくとも、経済3団体が一緒になって、外資系や中小企業とも連携しなければなりません」

大学側はといえば、11月に就問懇が「大学側と経済界の意見交換を経ない見直しは避けてほしい」という趣旨の要請を経団連と日商に提出。だが、10月中旬までに有力154大学に行ったアンケートで、学長の6割が「選考解禁時期は4月が適当」と答えたという報道もあった。

人事や採用に詳しいHR総研の松岡仁主任研究員は、「どんな日程に設定しても問題が起こってしまうのであれば、日程自体をなくしてしまうのも一案だと思います」と、「通年採用」を支持した。都内の大手IT企業の人事担当者は、今年の採用で平然と嘘をつく学生が増えたと感じた。

「面接じゃないよといって面接をするなど、学生に大人が嘘をついている。化かしあうくらいなら、最初から通年採用にしたらよいのではないでしょうか」

通年採用にも問題点はある。文科省高等教育局学生・留学生課長の渡辺正実氏は指摘する。

「意識の高い学生以外は、活動を始めるきっかけを失うし、中小企業は今までよりも母集団形成に苦労するでしょう」

(編集部・直木詩帆、古田真梨子)

※AERA 2015年11月16日号
 

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