「寂しさはまったくない」82歳《最後の村人》が"理想郷"で1人暮らしするワケ…文豪・武者小路実篤がつくった村で送る「孤独でも豊かな生活」
なぜこの地に惹かれたのか。松田さんは、遠くの山を見つめながら、ゆっくり語った。
「普段の養生が大事、人間は。米づくりや野菜づくりを自分で体験して、本来の自然の力をいただく。そういう最小限の環境で、自分でできることを自力でやっていくという生き方が僕にとっては最高なの。
会社勤めしてたらさ、勤務時間や決まりとかがあるじゃない。ただお金があって不自由しないっていうだけで、自然の恵みをいただくという喜びが乏しい。金があるからといって、人間がつくられるわけじゃないからね」
松田さんは「養生(ようじょう)」という言葉を何度も口にした。自身の健康を保つ、という意味だが、82歳になった今もその言葉通りの生き方をしている。
「死ぬまで楽しみ尽くしたい」
日向新しき村の住人は、松田さんが最後になるかもしれない。だが、悲観する様子はない。敷地内の墓には、すでに自分の名前を刻んでいるという。
「新しき村は周りからは非常識に見えるかもしれない。でも、時代の常識に迎合するのではなく、自分がやりたいことはへそ曲げてでもやることだと思います。働くことも食べることも楽しまないといけない。僕は自分が死ぬまで楽しみ尽くしたいと思ってるの」
実篤は1920年10月、こう書き残している。
<新しき村の精神が本当にわかるには今の社会の生活がまちがっていることを本当に知らなければならない。それは物質上の苦しみからばかり来るのではない。精神上の苦しみから来なければ嘘である>
開村から107年。理想は形を変えながらも、たしかに受け継がれていた。
取材を終えようとした記者が足元にかゆみを感じてかくと、指が血に染まっていた。得体の知れない物体に驚く記者を見て、松田さんが笑った。
「ヒルだね。今はまだ少ない時期だから、水源に連れて行ったんだけど、もっと多い時期だったら行かなかったよ。ここまで取材に来てヒルに血を吸われるなんて、いい経験になったんじゃない?」
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