「寂しさはまったくない」82歳《最後の村人》が"理想郷"で1人暮らしするワケ…文豪・武者小路実篤がつくった村で送る「孤独でも豊かな生活」
慌てて後を追うが、前日までの雨で斜面はぬかるみ、足を滑らせば谷底に転げ落ちかねない。ロープや木の根を頼りに慎重に進み、約30分後、ようやく取水ダムに到着。写真を撮る余裕もなく、靴も手も泥だらけになった。
「ここまで記者が来たのは初めてだよ」
松田さんは笑いながら、山水が溜まる場所に備え付けられた管の周囲に溜まった泥や葉っぱを取り除き始めた。台風や大雨で土砂が流れ込み、水が止まることもある。一方で、雨が降らない日が続き過ぎると、生活水が枯れる。
「ここは多くの人が住める場所じゃない。本当に好きじゃないとできない。でも自分で望んでやっていることが大事なんだよね。僕にとっては普通の生活だから、寂しさはまったくない」
武者小路実篤が1918年に開村、最盛期は50人の住民
「新しき村」は、明治から昭和にかけて活躍した作家、武者小路実篤(1885〜1976年)が1918年に開いた「人道主義共同体」だ。掲げた「精神」は次のようなものだった。


















