「吹奏楽コンクール」今の仕組みは"昭和"のまま?何十年も見過ごされてきた「音楽理論の欠如」、期待される<指導者の"読譜力"向上>

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まずは、以前の記事(記事1記事2記事3)で論じた、私たちが取り組むべきポイントを簡単に振り返りたい。

「プリンシプル」なき地域展開の問題点

部活動の地域展開は「子どもの文化の持続」を目的とすべきだが、現状では大人の論理や現状維持が優先され、子どもの文化の新たな展開にはつながっていない。とくに吹奏楽ではコンクール中心の活動が「音楽づくり」のすべてとなり、音楽教育の本質的意義が欠如している。まずはこうしたプリンシプルについての議論が必要だろう。

「持続可能なモデル構築」の必要性

少子化の中で吹奏楽を継続するには、団体の法人化や地域住民・企業との連携が不可欠である。また、学校種を超えた合同団体も有効な選択肢であり、試行錯誤を通じた最適解の模索が急務だ。

指導者育成の課題

指導者不足の本質は「質」にあり、現職者も未来の指導者も基礎力の向上が求められる。長期的な育成・研修システムを構築し、子どもたちの吹奏楽環境を維持する新たな流れを形成することが重要である。

このように、「進化しすぎたことで無理が生じた状況」と、「少子化社会進行への対処」という、まったく異なる次元の問題に私たちは同時に対処していかなければならないことを改めて認識しなければならない。

平等性の担保が難しい吹奏楽コンクール

さらに、少子化社会を背景に文化の持続可能性を考えるならば、「コンクールの仕組みの変革」も喫緊の課題だ。そのうえで、若い世代による研究は、吹奏楽の学術的発展において貴重であり、多くの示唆に富む。

例えば、以前の記事でも詳しく紹介したが、慶應義塾大学大学院博士課程で音楽神経科学の研究を行っている三摩朋弘氏の論文「視覚優位性効果は評価者の音楽経験と視聴覚統合の相互作用に依存する:日本の吹奏楽コンクール映像を用いた検証」では、「吹奏楽コンクール審査が聴覚よりも視覚的効果に影響される可能性」が指摘されている。

また、松山博幸氏の論文「審査のゆがみ:全日本吹奏楽コンクールを例に」(東京大学大学院経済学研究科修士課程在籍時の研究)も重要な視点が示されている。

松山氏は「演奏順序が結果に与える偏り」を定量的に分析し、演奏順が早いほど不利という傾向を検証。さらに、この審査バイアスが音楽コンクールや体操競技など複数分野で一貫して観察されることを示した。審査方法の変更がバイアス解消に寄与しない場合も多いという。

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